神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
あぁ、何だお前か。

「ベリクリーデじゃないか…。どうかしたのか?」

「ジュリスを探して三千里してた」

そりゃ遠いところを、遥々ありがとうございますね。

三千里も探さなくても、同じ建物の中にいるよ。

「またここに来てたの?」

「何か手がかりがないかと思ってな…。さっき、シルナと羽久から気になる話も聞いたし」

「ほほう。聞かせてもらおう」

何で上から目線?

まぁ良い。この際だから、ベリクリーデの意見も聞いておこうか。

こいつも妙なこと言ってたもんな。

この世に存在しちゃいけない、凄く悪い人…って。

あの発言の意図を、今一度ベリクリーデ本人に確かめておきたかった。

…の、だが。

「お前、前この部屋に来たとき、気になること言ってただろ」

「…気になること?」

「シュニィを連れ去ったのは悪い人だって。しかも、この世に存在しちゃいけないくらい悪いって」

「…」

…何だその沈黙。

おい、まさかお前。

「忘れたのか…?」

「…。…忘れてなんかないよ」

本当か?今一瞬沈黙してなかった?

「とにかく、お前のその発言と関係あるのか知らないが、さっきシルナと羽久が…」

「捕まえたの?犯人」

いや、それはまだだけど。

捕まえてたら、こんなところで油売ってねーよ。

「犯人は魔物なんじゃないか、って言ってきたんだ」

「…魔物…」

「そう考えたら、確かにエリュティアの探索魔法に引っ掛からない理由も、あのシュニィがみすみす連れ去られた理由も、説明がつくんだよな」

この世の生き物じゃないからな、魔物って。

現世の常識は通用しない。

それに、もし本当に魔物なのだとしたら…ベリクリーデが言ってた気になる発言とも繋がる。

「お前はどう思う?犯人は魔物なのか?」

「…魔物…。…まもの…」

「…」

…こいつ、まさか。

「…お前さては、魔物って何だろう、とか考えてないよな?」

「ぎくっ」

ぎくって言っちゃってるし。

本当に考えてるのか。忘れたのかお前は。

「…お前って奴は…」

魔物の存在を知らない聖魔騎士団魔導部隊大隊長がいるか?

ここにいる。

なんて情けない。吐月んとこのベルフェゴールと、何回も顔合わせたことあるだろうが。

「大丈夫だよ。ちゃんと覚えてるよ」

「本当か?」

「うん。まもの…。…お鍋に入れると美味しいよね」

不味いわ。

ベリクリーデが魔物を理解していないことが判明した。

意見を聴くどころじゃない。魔物の説明から始めなきゃならんとは。

「大体、お前。前戦ったことあるだろ」

「ふぇ?」

「ヴァルシーナが率いてた『カタストロフィ』のメンバーの一人だ。三つ首のバケモノみたいな魔物と契約した召喚魔導師がいただろ?」

もう随分昔のことのように思えるな。

そんなに前の話ではないんだが。

思えば、あの頃から俺はベリクリーデの面倒を見ていたのか。

本当よく頑張ってるよ、俺。自分で自分のこと褒めたくなるな。
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