神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
しかし、ベリクリーデは。

「…」

無言で、ぽやんとしていた。

…成程、やっぱり忘れてるんだな。

お前はそういう奴だよ。

「…ったくお前は…」

「…覚えてる、覚えてるよ」

「嘘つけ、忘れてるだろうが」

「覚えてるよ。ジュリスが食べられそうになってた、首がいっぱいある怪獣でしょ?」

食べられそうになってたのはお前だよ。

と言うか、一応覚えてはいるんだな。

記憶に一部誤りがあるものの。

「そう、それが魔物だよ」

「そいつがシュニィを攫ったの?」

「そいつって言うか…。犯人は魔物なんじゃないかって話だ。だから多分、裏で魔物に指示を出した召喚魔導師がいるはずなんだが…」

「…しょーかんまどーし?」

「魔物と契約して、血と魔力を代償に現世に魔物を呼び出す魔導師だよ」

例の、お前が食べられそうになった魔物と戦ったときも。

その隣に、魔物と契約した召喚魔導師がいただろうが。

まぁ、忘れてるんだろうと思うけど。

「だから捕まえるべきは、魔物じゃなくて、その魔物を使役してる召喚魔導師だな」

「…」

「そう思って、シュニィに恨みのある召喚魔導師がいないかどうか、少し探ってみたんだが…」

生憎、これと言って名前の挙がる人物はいなかった。

シュニィはあの優しい、親切な性格だからな。

自分が捕まえた犯人でも、親身になって話を聞き、場合によっては、公平な裁判をするように口利きをし。

更生の為に手を貸し、決して人を見捨てるような真似はしない。

自分に優しくしてくれる人を憎むってのは、なかなか出来ることじゃないからな。

とてもじゃないが、シュニィが誰かに恨みを買うとは思えない。

…ただ一つ、彼女がアルデン人であることを除いては、だが。

下らない人種差別は、未だに根強く残ってるからな。

どっかのクソッタレな差別主義者の犯行…という可能性も考えられる。

いずれにしても、召喚魔導師の犯行ということはほぼ確実。

もしかしたら、シュニィを連れ去ったのは怨恨目的ではなく。

アーリヤット皇国の皇王直属軍…通称『HOME』。

ネクロマンサー、ルディシア・ウルリーケが所属している組織。

その組織に所属する召喚魔導師の仕業、とも考えられる。

どうやら、国を挟んだ盛大な「兄弟喧嘩」は、まだ続いているらしいからな。

迷惑な話だよ。

皇王直属軍と言うくらいなのだから、召喚魔導師の一人二人くらいはいるだろう。

アーリヤット皇王が指示を出して、その召喚魔導師にシュニィを連れ去らせたのかもしれない。

望みは薄いが、ルディシアに聞いてみるべきだろうな。

『HOME』に、召喚魔導師はいなかったかと。

…でも、ルディシアはあの性格的に、他人に興味を持つタイプじゃない。

思い当たる召喚魔導師がいたとしても、顔も名前も覚えていないかもしれないな。

それに、望んで『HOME』に所属していた訳ではないとはいえ、古巣の情報をぺらぺら喋るのは気が進まないだろう。

聞くなら、言葉を選んで慎重に…。

「成程、じゃあその魔物が犯人だね」

「…は?」

ベリクリーデは両腕を組んで、何故か自信満々といった風に断言した。
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