神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「聞かない方が良いって言ってるのに…」

「えぇ、知ってます」

「私はね、何も意地悪のつもりで黙ってるんじゃないんだよ。ナジュ君の為を思って言ってるの」

「えぇ。それも知ってます」

相思相愛ですからね、僕達。

リリスが僕の為を思って、敢えて忠告してくれてるんだってことは、よーく分かってる。

でも、それはそれ、これはこれって奴でして。

「大体ナジュ君、そのシュニィちゃんって子と仲良かったっけ?」

お?そういうこと聞きます?

嫉妬?嫉妬ですか?

何それ。めちゃくちゃ可愛いんですけど。

「特に仲良しという訳ではありませんね」

「だったら、別に知らなくても良いじゃない」

「そうは行かないんですよ」

えぇ。確かに僕は、それほどシュニィさんと仲が良い訳じゃありませんし。

僕は厳密には聖魔騎士団の人間ではないので、彼女が戻ってこようとこまいと関係ない…。

…なんて、言うほど僕は薄情な人間ではないつもりなので。

これでも一応、何度も聖魔騎士団の皆様には助けてもらってますしね。

「ほら、僕男の子なんで。格好良いところ見せたいって言うか…」

「…それが動機なの?」

「そうですね」

「…」

「…」

無言でお見合い。

これでも真面目なんですよ、僕。

傍から見ると馬鹿馬鹿しいかもしれませんけど。

…すると。

「…もー、ナジュ君には敵わないなぁ」

呆れたような笑顔を浮かべて、リリスが折れてくれた。

「やっぱり笑顔が素敵ですね、リリスは」

「え?どうしたのいきなり」

「いえ、こちらの話です」

どうぞ、気にせず続けてください。

「分かったよ…。そこまで言うなら、私も覚悟を決める」

「ありがとうございます」

「…でも、一つだけ条件がある」

笑顔から一転、リリスは真剣な顔つきで僕を見つめた。

おっと。これは穏やかではありませんね。

条件…って何なんでしょうね。

僕に出来ることなら良いんだが…。

「聞きましょう」

「これから話す人物…。シュニィちゃんを誘拐した犯人と、絶対戦わないで」

…ほう。

それはまた…予想外の条件ですね。

「…はいと言う前に、理由を聞いても良いですか?」

「先に、はいと言ってから理由を聞いてよ」

それはちょっと、済みませんけど。

「僕は不死身なんですよ?煮ても焼かれても死にません。それでも戦っちゃ駄目なんですか?」

「駄目に決まってるでしょ。この際だから言わせてもらうけど、ナジュ君は不死身なのを良いことに、危険に飛び込み過ぎだよ」

説教が始まってしまった。

積もりに積もったリリスのお小言が。

「死ななくても、痛みは普通の人と変わらないんだから。もっと自分を大切にして。…って、いつも言ってるでしょ?」

「はい。それはもう…仰る通りでございます」

平身低頭、ここは素直に頷いて、謝っておこう。

しかし。

「そうやって素直な振りして、早く説教終わらせようとしてるでしょ」

リリスの方が、一枚上手だった。

さすがリリス。僕のことをよく分かっていらっしゃる。

嬉しくなってきますね。
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