神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…令月、すぐり、そしてツキナ・クロストレイを含む7人の女子生徒が。

銀色の毛並みの猫を抱えて、真剣な眼差しで学院長室にやって来る、その少し前。

シルナは呑気な顔で、今日はチョコバナナマフィンを頬張っていた。

「ん〜。今日も美味しいなぁ〜」

「…」

この間はしこたま、チョコドーナツを頬張り。

今日はチョコバナナマフィンか。

デブ学院長まっしぐら。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど、マフィンが美味しいから気にならないや…」

あっそ。

「羽久も食べるでしょ?はいっ」

「いや、俺は…。…って、お前またどんだけ買ってきたんだよ…」

巨大な白い箱の中に、大量のチョコバナナマフィンが並んでいた。

全部同じ味。

違う味を入れてくれよ。頼むから。

誰もがお前のように、重度のチョコレート中毒じゃないんだよ。

「だって、皆で食べようと思って」

と、シルナは目をキラキラさせながら答えた。

…そんな嬉しそうに言われたら、俺としてはもう何も言えない。

皆って言っても…。

「誰も来てないじゃん。今日は…」

「そうなんだよ。早く誰か来ないかな?ナジュ君でも天音君でもイレースちゃんでも…」

イレースは来たとしても、マフィン食べてはいかないだろ。

「生徒達も、最近あんまり来てくれないんだよなぁ…」

時代はチョコ中毒の学院長ではなく、変態読心魔法使いなのかもしれない。

どっちも最悪だ。

「そうだ!向こうから来てくれないなら、こっちから伺うのはどうだろう?」

シルナは、妙案とばかりに手をぽんと打った。

…は…?

「どういう意味だよ。こっちからって…」

「各教室を巡って、チョコマフィンをお届けするんだよ。『マフィン要りませんか〜!』って」

押し売りかよ。

「きっと皆、喜んで食べてくれるはずだ!よし、そうと決まれば羽久。早速行こう!」

何で俺まで巻き込まれてんだ?

俺はそんな、タチの悪いセールスマンみたいな真似はしないぞ。

「アホなこと言ってないで、お前は少し…」

と、俺が言いかけたそのときだった。

「…学院長先生、失礼します」

緊張した面持ちの女子生徒達+元暗殺者組が、学院長室に入ってきた。

これには、さすがの俺もびっくりした。

女子生徒達に、じゃない。元暗殺者組に驚いた訳でもない。

驚いたのは、生徒達が両手に抱いている生き物の存在だった。

…あれは…もしかして…いや、もしかしなくても…。

…猫、か?
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