神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
第9章
――――――…スクルトが、僕に殺される未来を知っていた?

有り得る話ではある。

知っていたのに、スクルトは逃げなかった。

何故?

僕に打ち明けても、逃げ出しても変わらない、『赤』い未来だったから?

でも、本当に最期の瞬間に僕を憎んでいたのなら、その未来が見えた時点で、僕を問い詰めたはずだ。

「お前に殺される未来が見えたんだが、これはどういうことだ」って。

それなのにスクルトは、それをしなかった。

自分の人生の終わりが見えても、逃げることも隠れることも臆することもなく、ただその未来を受け入れた…。

僕に殺されるという未来を。

「思い出してください。あなたの愛した人の最期を。スクルトさんは本当に…あなたを憎んでいたんですか?」

「…それは…」 

僕は再度、記憶を手繰り寄せた。

思い出したら、胸が張り裂けそうになる記憶。

だから蓋をして、鍵をして、決して開けることなくしまい込んだ。

二度と思い出したくない記憶だった。

記憶の鍵を開けて、蓋を開けて中身を引っ張り出す。

それは僕にとって、酷く辛いことだった。

でも、もしシュニィ・ルシェリートの言っていることが正しいのだとしたら。

僕はこれまでずっと、自分の記憶を歪めて…。

あの日…あの日僕は、突然内なる衝動に駆られて、それから意識が遠くなって…。

自分の身体のはずなのに、まるで自分のものじゃないような感覚がして…。

気がついたら、この手でスクルトを…。

「…っ…!」
 
その瞬間を思い出して、僕の目の前に恐ろしい記憶がフラッシュバックした。

まるで今現実に起きていることのように、鮮明に情景が思い浮かぶ。

あのときスクルトは僕の前にいて。

豹変した僕を見ても、少しも驚いた様子はなくて…。

僕の爪がスクルトを引き裂くその瞬間。

スクルトの顔は、憎しみと怒りに歪んでいた…。

…。

…。

…本当に?

「思い出してください。本当は何があったのか、よく思い出すんです」

シュニィ・ルシェリートの声が、頭の中に響いた。

思い出したくない。

思い出したら辛くて堪らなくなるから、必死に記憶に蓋をし続けた…。

…でも。

「あなたの愛する人が、最期にあなたに何を伝えようとしたのか…。分かってあげてください」

と、シュニィ・ルシェリートは言った。

スクルトが…最期に、僕に何を言おうとしたのか。

僕に何を伝えようとしたのか。

…それは…。

「…!」

目の前に、スクルトの最期の瞬間が浮かび上がった。
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