神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…それなのに。

「…分かりました。じゃあ、マシュリさん…一緒に行きましょう」

「え?」

シュニィ・ルシェリートは、僕に手を差し出した。

…何をやってるんだ。

「一緒にここを出ましょう。仲間達に、あなたのことを紹介したいんです」

「…君って人は、自分を誘拐した犯人が少しでも憎いとは思わないの?」

あろうことか手を差し伸べて、一緒に行こうとは。

君はそれで良いのか。

「憎いなんて思ってません。マシュリさんにはマシュリさんなりに、こうせざるを得なかった理由があると分かりましたから」

「…」

「だからこそ、皆さんに誤解されない為にも、私の口から皆さんにマシュリさんのことを紹介したいんです。あなたは決して、悪い人じゃないんだって」

「…」

つくづく、甘い人だ。

でも、その優しさに僕は救われたんだよね。

少なくとも…スクルトが僕に託してくれた未来を知ることが出来た。

充分だ。

これでもう充分過ぎる。

罪を犯したこの身には…。

「行きましょう、マシュリさん。…一緒に」

「…分かったよ」

僕は、差し出されたシュニィ・ルシェリートの手に、そっと自分の手を重ねた。

傷つける以外の目的で誰かの身体に触れたのは、スクルトの亡骸を抱いたあの日以来だ。

あのときスクルトの身体は、氷のように冷たかった。

でも今…シュニィの手は、とても温かく感じられた。

「それで、マシュリさん。一つお聞きしたいんですが…」

と、シュニィが言った。

「何?」

「ここって、何処なんですか?ルーデュニア聖王国の国内でしょうか…?」

…あぁ。

シュニィは、自分が何処に拉致監禁されているのか、知らないんだよね。

「心配要らないよ。ここは、君もよく知っている場所だから」

「え…?」

実を言うと、僕はシュニィ・ルシェリートを誘拐した…と言うより。

ただ10日ばかり、プチ家出に付き合ってもらったに過ぎないのである。
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