神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…その頃、俺とベリクリーデは。




「よし、今日も頑張って探そう」

「…」

今朝は珍しくベリクリーデが、俺に起こされなくても自分で起きて。

朝っぱらから仕事にやる気を出している。これはとても良いことだと思う。

いつもこうだったら、俺としては非常に有り難いんだがな。

そうは行かないんだよな。残念ながら。

しかも、やる気を出しているのは良いとして…。

「昨日は女の人の隊舎を探したから、今日は男の人の隊舎を探そうね、ジュリス」

「…」

「よし、じゃあ行こっかー」

ベリクリーデは、聖魔騎士団魔導部隊にある、男性隊舎の建物に足を踏み入れようとした。

おい、ちょっと。ちょっと待てって。

「待て、ベリクリーデ」

「ほぇ?」

ほぇ、じゃなくて。

「お前、昨日から…何をしようとしてるんだよ?」

お前が仕事に乗り気なのは良いことだけど、方向性がな?

ちょっと、方向性が一般人とズレてる気がするんだよ。

ベリクリーデがズレてるのは、今に始まったことではないが。

「昨日と言い、今日と言い…。俺は何に付き合わされようとしてるんだ?」

「え?何って…。シュニィを探すんでしょ?」

それはそうだけど。

「だからって、何で魔導隊舎を探してるんだ?」

あのな、今や聖魔騎士団魔導部隊の大隊長全員が、そしてイーニシュフェルト魔導学院の教師陣が、皆して必死にシュニィの行方を探してるんだぞ。

それでも見つからなくて、気を揉んでいるというのに。

こんな近場を探して、それで見つかるとでも?

迷い猫を探すのに、自分ちの庭探してるようなもんだぞ。

「だから、砲台もと暗しって」

「灯台な、灯台」

「ここにいる気がするから」

…出たよ。

ベリクリーデ特有の、いつものアレ。

何でもかんでも、自分の直感で行動する。

直感を大事にするのは大切だけど、直感だけを信じるのは馬鹿のやることだからな。

頭を使いつつ、どうしても困ったときだけ直感の力を頼れ。

それなのに、ベリクリーデは相変わらず、聞く耳を持たない。

「よし、じゃあ探そっかー」

「あ、おいコラ」

ベリクリーデは俺が止めるのも聞かず、すたこらさっさと歩いていった。

…放っておいても良いんだが。

男性隊舎の中に、女であるベリクリーデが一人で入っていくのは、色々と問題がある。

「…あぁ、ったく…」

頭をガリガリと掻いて、俺は全てを諦め、ベリクリーデの後を追った。
< 175 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop