神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ベリクリーデの後を追いかけていってみると。

それはもう、エラいことになっていた。

「シュニィ、シュニィ。何処かなー」

「うわっ、べ、ベリクリーデ隊長…!?」

「あれ?ここじゃない。こっちかな?」

「…えっ!?ちょ、今着替え中なんですけど…!?」

あろうことかベリクリーデは、ノックもせずに部屋という部屋を手当たり次第に開け。

平気で中を覗いて、シュニィを探していた。

いきなり部屋の扉を開けられ、中にいた魔導隊士は、当然驚愕の悲鳴をあげていた。

…あの、馬鹿は。

「ベリクリーデ!やめんか、こら!」

ようやく追いついた俺は、いの一番にベリクリーデの頭を引っ叩いた。

「!ジュリスがぶった」

ぶつだろ。

お前という奴は、自分が一応女だって分かってるか?

勝手に男しかいない男性隊舎に入り込んで、あろうことか、無断で部屋を開けるなんて。

こいつはアホなのか。馬鹿なのか?

そりゃ聖魔騎士団には、ベリクリーデに手を出そうなんて愚か者は存在しないだろうが。

それにしたって、最低限守るべき礼儀ってもんがあるだろうが。

しかし、ベリクリーデは。

「…ジュリスがぶった…」

「あぁ…?」

「ジュリスがぶった~…」

「…」

もしかして、俺が悪者?

「痛かったよ~…」

「…分かった、悪かったよ。俺が悪かったから」

「蠅が止まったのかと思った」

ノーダメージじゃねぇか。畜生。

「良いから、お前。人様の部屋を勝手に開けるんじゃない」

さっき着替えてる人いただろ。本当申し訳ない。

如何せんベリクリーデは、男である俺が部屋を訪ねていっても。

平気で下着を丸出しにして、俺の目の前で着替えようとする有り様だからな。

今更、異性と言えども人様の着替えを見ても、お前は何とも思わないのだろうが…。

見られた方は、めちゃくちゃ気まずいからな。それを忘れるなよ。

「でも、中にシュニィが隠れてるかもしれないでしょ?」

「いや…。こんなところに隠れてる訳…」

「あ、あっちかな?開けてみよー」

「あ、おい。待てって!」

さっき止めたばっかりだろうが。やめろって。

ベリクリーデは、廊下の突き当たりの部屋のドアノブを、相変わらずノックもせずに引っ掴んだ。

しかし。

「…?…??」

ドアノブを回しても、押しても引いても動かない。

どうやら、この部屋だけ鍵がかかっているようだ。

「ジュリス、この部屋鍵がかかってる」

「本当だな…」

「何でここだけ?偉い人の部屋なの?」

「え、いや。そんなはずは…」

このフロアは、普通の平魔導師が住んでいる部屋が並んでいる。

夜中ならともかく、今は鍵をかける必要はないはずだが…。

…それに、俺の記憶が正しければ…。

「この部屋、空き部屋じゃなかったか?」

確か突き当たりの部屋は窓もなくて、ちょっとした物置きのように使われていたはず。

そんな物置きに、わざわざ鍵をかけてるのか?
 
「そうなの?変だね…。…ひらけごまー」

「いや、開かないだろそれじゃ…」

何処で習ってきたんだ?

ともかく、ちょっと事務所に行って鍵を取ってこよう。

多分何もないとは思うが、実際に目にしないと、ベリクリーデも納得しないだろうし…。

…すると。




「…え?」

鍵がかかっていたはずの扉が、内側から開いた。


 


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