神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
そこにいたのは、紛れもなく。

「あっ…。ベリクリーデさん、ジュリスさん…。…こんにちは…」

驚いた顔をした、我らが聖魔騎士団魔導部隊隊長、シュニィ・ルシェリートその人であった。

…あれ?本当にシュニィだよな?

ここ10日ばかり、ずっと探し求めていた人物が目の前にいた。

あまりに突然の再会に、シュニィのみならず、さすがの俺も度肝を抜かれ。

「お、おぉ…。…こんにちは…」

釣られて、普通に挨拶を返してしまった。

人間テンパると、自分でも予想外の反応をしてしまうものである。

つーか、シュニィと手ぇ繋いでる横の人、誰?

この状況下で、全く驚いていないのはベリクリーデだけであった。

「ほら、ね?ここにいる気がするって言ったでしょ?」

しかも、ちょっと得意げだった。

ある意味、こいつが一番の大物かもしれない。

そして、現状…シュニィを見つけたという点で、ベリクリーデが一番の功労者でもある。

まさかそんな…ベリクリーデの勘が、エリュティアの探索魔法を越えるとは…。

世の中、困ったとき、何が当てになるか分かんないもんだな…。

…って、んなことはどうでも良いんだよ。

「…シュニィ!お前、本当にシュニィか!?」

ようやく、俺は正気に戻った。

本物だよな?幻とかじゃないよな?

「え、あ、はい。私がシュニィですけど…」

そうか。そりゃ良かった。

「お前、今まで…何処にいたんだ…!?」

「そ、それが…私にも何が何だか…。…えぇと、私はここに閉じ込められていたんですか…?」

と、シュニィは傍らの男に尋ねた。

さっきから思ってるが、誰なんだそいつは。

「そうだよ」

「…そ、そんな…。私、こんなに皆さんの近くに居たんですか…?」

「…」

…マジで?

シュニィが連れ去られたのは外国か、それとも異次元か、時空の狭間かと気を揉んでいたのに…。

…まさか、同じ屋根の下にいたとは。

蓋を開けてみれば、こんなに馬鹿馬鹿しいことがあろうか。

砲台、いや、灯台下暗しとはよく言ったもの。

今回はことごとくベリクリーデの直感が当たりまくりで、俺の立つ瀬がない。

しかし、それが何だと言うのか。

シュニィが生きて、再び俺の目の前に現れたのだ。

これ以上大切なことがあろうか。

「シュニィ、お前…無事なのか?怪我は?」

「大丈夫ですよ」

どうやら…怪我はしていないようだな。

手荒く扱われたようにも見えない。

10日ばかり監禁生活が続いて、少々疲れた様子は伺えるものの…。

最悪の事態さえ想定していたのだから、それに比べれば、自分の足で立って喋っているだけでも充分だ。

…本当に、良かった。

これで俺、アトラスにどやされずに済むよ。
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