神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
俺としては、マシュリに味方になって欲しかった。

俺はまだ、マシュリのことはよく知らないけど。

単純に…味方が増えるのは歓迎だ。

え?誘拐犯を歓迎するなんて正気か、って?

今更だろ?

こちとら、身分を隠して学院に潜入しててきた元『カタストロフィ』の刺客やら。

シルナを罠に嵌めて失脚させようとした、元ラミッドフルスの鬼教官やら。

シルナの命を狙いに来た、異国の暗殺組織『アメノミコト』の元暗殺者やらが味方なんだぞ?

そこにシュニィ誘拐犯の犯人が加わったところで、何とも思わないよ。

しかし改めて考えてみたら、俺の同僚って、なかなかヘビーな経歴を持ってる奴ばっかだな。

「確かに。それに比べたら、僕はまだライトな方ですね」

俺の心を読んだナジュが、真面目な顔してそう言った。

お前が一番ヘビーなんじゃね?

「是非、ルーデュニア聖王国に居てください。私達は誰も、あなたを差別したりしませんから」

再度、シュニィがマシュリを勧誘した。

何だかんだ、聖魔騎士団大隊長の連中は、多種多様な多国籍軍だもんな。

生粋のルーデュニア人なのは、キュレムとルイーシュ、エリュティアくらいか?

なんて国際色豊かな部隊だ。

それに、ケルベロスと人間のキメラだって言うから、どんな異形のバケモノが出てくるかと思ったら。

見たところマシュリは、普通の青年である。

確かに気配や雰囲気は、人離れしているような気がしなくもない…が。

言われなきゃ、多分気づかないレベル。

それに、マシュリがキメラだから何だって言うんだ?

俺だって大概…バケモノみたいなもんなんだし、人様のこととやかく言える立場じゃない。

「…変人揃いだからな、うちは」

俺もマシュリに、そう声をかけた。

「生い立ちとか育ちとか…今更誰も気にしないよ」

「…」

…何も答えない。

気が進まないか?

マシュリは黙って、視線を逸らして俯いていたが…。

「…お前、居場所…欲しかったんだよな?」

そう尋ねると、マシュリはハッとして顔を上げた。

…だよな。…分かるよ。

「居心地が良いかは別にして…。ここをお前の居場所にするのはどうだ?」

お前は確かに、アーリヤット皇王の命令を受けてこの国に来たんだろうが。

だからって、別にアーリヤット皇国に深い思い入れがある訳ではあるまい?

それどころか、任務に失敗して帰ったら…ナツキ様に何をされるか。

何より、もしマシュリに居場所がなくて、孤独に苛まれているのなら…。

気持ちが分かる者として、放ってはおけなかった。

ルーデュニア聖王国が楽園だ、とまでは言わないけどさ。

少なくとも、ここにいる俺達は、マシュリが何者であろうとも気にしない。

当て所もなく彷徨うよりは、マシなんじゃなかろうか。

「それとも、他に行きたい場所があるのか?」

「…ないよ、そんなものは」

「…だったら…」

…しかし。

「違う。駄目なんだ、そういうことじゃない」

マシュリは頭を振って、悲しそうな顔で言った。

…そういうことじゃないって、じゃあどういうことだ?
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