神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
こんな酷い話があるかよ?

ご先祖が人間と結ばれたからって、その子孫は人間と交歓することを許されない…どころか。

冥界にも現世にも居場所がなくて、呪いのせいで誰かと仲良くすることも出来なくて…。

まるで、ハリネズミのジレンマのようだ。

人の温もりに触れたくても、マシュリ自身のトゲがあまりにも鋭くて、温かさに触れる前に相手を傷つけてしまう。

相手を傷つけたくないが為に、マシュリは誰かの温もりに触れることを諦めざるを得ない。

そうして、ずっと一人で…孤独に…あるはずのない居場所を求めて彷徨い続ける。

それがどれほど辛く、寂しい旅だったことか。

…シュニィがマシュリを許したのは、そういう理由なんだろう。

俺だってそう思うよ。

こんな事情を聞かされて、どうしてマシュリを恨むことが出来ようか。

むしろ、何としても救いたいと思ってしまう。

俺も、シルナのお人好しが移ったか?

「僕は罪を犯した。呪われてるんだ…。君達に同じ罪を背負わせる訳にはいかない」

「…」

「君達が良い人だって分かってるからこそ、巻き込みたくないんだ」

…そうかよ。

やっぱり、出ていくって言ってるのはお前の意志ではなく。

俺達の身を守る為なんだな?

かつて、マシュリの大事な人を、呪いのせいで殺してしまったから。

二度と同じ過ちを犯さないように、最初から誰にも近寄らない…。

心落ち着ける場所を作らない。大切な人を作らない。

周囲を遠ざけ、孤独であることで…周りの人間を助ける。

何とも素晴らしい、自己犠牲の精神じゃないか。

確かに、それで俺達の身は守られるだろう。

でも、マシュリはどうなる?

誰より深く傷ついて、今も辛い思いをしているマシュリを、誰が守ってくれるんだ?

…誰もいないじゃないか。

「僕の罪のせいで…もう二度と…」

…何言ってんだよ。

そんな…泣きそうな顔で。

「…お前の、罪じゃないだろ」

お前は何一つ、悪いことなんてしていない。

それなのにどうして、マシュリがその罪の責任を背負わされてるんだよ?

おかしいだろ、そんなの…。

だけど、俺がとやかく言える立場だろうか?

「そんなことない、大丈夫だ」と言って良いのだろうか?

マシュリだって、死ぬほど考えたはずだ。

本当はどうするべきなのか。自分の為に、そしてそれ以上に大切な人を守る為に。

ご先祖の犯した罪を背負い、恐ろしい呪いを背負い。

今ようやく、手に出来そうな自分の居場所さえ…そのせいで諦めなければならない。

今のマシュリがどんな気持ちか、俺には分からない。

多分、言葉では言い表せないものがあるだろう。

自分が犯した訳でもない、重い罪を背負わされたマシュリの気持ちは…。

…すると。

「…マシュリ君、君は一つ思い違いをしてるよ」

マシュリにかける言葉をなくした俺に代わって。

シルナが、口を開いた。
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