神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…下校時刻が過ぎた後。

「あ、いろりちゃんだ」

学院長室に、銀色の毛並みの猫が戻ってきた。

そして、くるりと空中で一回転。

ぽふん、と音がして、マシュリが姿を現した。

これが『変化』の力…。

改めて見ると、なかなか興味深い能力だよな。

猫が人間になったり、人間が猫になったり…。

シルナの分身魔法と違って、いずれの姿もマシュリ本体なんだよな。

「…疲れた」

と、マシュリは溜め息を漏らした。

お?

「『変化』するのって、そんなに体力使うのか?」

「違うよ。…生徒達にもみくちゃにされたから」

あぁ、成程。そっちな。

そりゃ仕方ないってもんだ。

「だから言ったろ?皆、お前が帰ってくるのをずっと待ってたんだよ」

いろりが突然いなくなって、生徒達がどれほど心配したか。

俺達だって、それなりに心配してたんだからな?

同時にシュニィも行方不明になっていたから、それどころじゃなかっただけで。

「多分、しばらくはもみくちゃにされるぞ。覚悟しておくんだな」

留守にしてたお前が悪い。

身から出た錆だと思って、甘んじてもみくちゃにされてくれ。

「…猫の姿とはいえ、こんなバケモノを可愛がるなんて、どうかしてるよ…」

ポツリと何やら呟いているのが聞こえてきたが。

聞こえなかったことにしておこう。

バケモノだろうが何だろうが、可愛いから可愛がるんだよ。当たり前だろ。

恨むなら、あんな可愛い猫の姿で生徒達の前に姿を現した、自分のことを恨むんだな。

「まぁまぁ、マシュリ君。疲れてるなら、チョコを食べて糖分を補給すると良いよ」

すかさず、とばかりに。

シルナはチョコケーキの皿を、マシュリの前に差し出した。

ごめんな。

大量にチョコケーキ購入したにも関わらず、生徒達が全然相手にしてくれなくてさ。

お陰で、めちゃくちゃ余ってるんだわ、ケーキ。

生モノを大量に買うのやめろよ。

「どうするんだよお前、その大量のケーキ…」

手を付けずに、腐らせて捨てようものなら。

イレースに激怒の雷を食らうのは避けられまい。

いっそ怒られた方が良いのかもしれない。骨身に染みるだろ。

「大丈夫。今からマシュリ君に食べてもらうし。それに、もし余ったら、生徒達皆の明日の朝ご飯のデザートにする」

名案とばかりに、シルナはドヤ顔で言った。

朝からチョコクリームこってこてのケーキとか、正気かよ。

俺は食べないからな。

「そんな訳でマシュリ君、ケーキいっぱいあるよ。どうぞどうぞ、遠慮なく食べて」

と、シルナに勧められたが。

「…いや、僕は要らない」

マシュリは頭を振って、チョコケーキを断った。

ほう、そう来たか。

お前が食べなかったら、俺達の明日の朝食が激重になるんだが?
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