神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「えっ!な、何で?マシュリ君…」

「僕は冥界の魔物だから…物を食べる必要はないよ」

それは知ってる。

「分かってるよ。俺達だって人間だけど魔導師だから、食事をする必要はないんだ」

「なら、何でこんなもの食べてるの?」

こんなもの、だってさ。

シルナ、お前に言ってるんだぞ。

耳の穴かっぽじって、よく聞いておけ。

「何でって…それは美味しいからだよ。チョコレートを食べると幸せな気持ちになって、世界が平和になるでしょ…?」

「…?」

「…真顔で首を傾げるのやめてくれないかな。ちょっと傷つく」

…お前がアホなこと言うからだろ。

チョコレートで平和になるのは、お前の頭の中だけだ。

「おやつだよ、マシュリ君。おやつ。ちょっとしたおやつだと思って食べてよ」

「おやつ…。いや、僕はそういうものは…」

甘いものは好きじゃないタイプか?

まぁ、マシュリの場合、普通の人間とは味覚が違うのかもしれない。

だって、ケルベロスと人間のキメラなんだろう?

食の好みも違うはずだ。

…ケルベロスって、何食べるんだろうな?

肉食…?

…すると、そのとき。

「…!」

マシュリが突然、ガバッと窓の方を向いた。

ど、どうした?

その次の瞬間、窓がガラリと開いた。

そこから入ってきたのは、いつもの二人。

「来たよ」

「お邪魔~」

令月とすぐり、二人の元暗殺者組である。

俺は全然気づかなかったのだが、マシュリはいち早く、この二人の来訪に気づいたらしい。

動物の勘…って奴なんだろうか。

「あれ、令月君。すぐり君…どうしたの?チョコケーキ食べに来た?」

チョコケーキ目的ではないだろ。

つーか、二人共つまみ食いしてたし。

「ううん、違う」

案の定、令月は首を横に振った。だよな。

「いやー、大した用事ではないんだけどさー」

「…何だよ…」

大した用事じゃないなら、来るなよ。

もう何度も何度も、口が酸っぱくなるまで何度も言ってるけどな。

下校時刻が過ぎた後に、校内をうろちょろするんじゃない。

イレースに言いつけるぞ。

言いつけても聞かないと思うけどさ。

…それはさておき。

「…。…!…っ…」

「…ど、どうした…?」

マシュリがなんか…突然様子がおかしくなってるんだが?

目をキラキラさせて、感極まったみたいな表情をしてる。

大丈夫か。何の衝動だ?

令月とすぐりが来たことに、何か関係あるのか?
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