神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「マシュリ、どうした…?」

「良い匂い…良い匂いがする…!」

とのこと。

…良い匂い…?

「…チョコケーキの匂いか?」

今この部屋にある、匂いのあるものって言ったら…シルナのチョコケーキくらいしか。

しかし。

「違う。そんなものじゃない」

そんなもの呼ばわり。

「これさー、ツキナにもらったんだよ」

と言って、すぐりが印籠のように掲げたのは。

「『これ、いろりちゃんにあげてー』って。ちゅちゅ~るだって」

ちゅちゅ〜る。

市販されている、猫用のおやつである。

「…良い匂いって、まさかそれ?」

「濃厚なマグロの香り…。そしてほのかに香るカツオの風味…!」

…なんか、マシュリが凄い興奮してるんだけど。

かつてないほど元気。

「猫の格好じゃないけど、食べる?はい」

「…!」

すぐりにちゅちゅ~るを差し出されたマシュリは。

しばし恍惚と、宝物でも見つめるようにちゅちゅ~るをキラキラした目で見つめ。

「…はむ」

封を開けて、ひたすらぺろぺろしていた。

…えーっと。

…俺、これどういう反応すべきなんだ?

一心不乱に舐めとる。

ちゅちゅ~るには、猫を狂わせる何かがある。

猫って言うか…マシュリなんだけど…。

「この人、チョコケーキよりちゅちゅ~るの方が良いんだね」

「喜んで食べてたって、明日ツキナに言っておくよ」

シルナのチョコケーキが、市販の猫用おやつに負けた瞬間である。

あれって、そんな美味いの?

「…なんつーか、マシュリがかつてないほど嬉しそうなのは良いんだけどさ」

「うん」

「…傍から見ると、猫のおやつを貪り食ってる頭おかしい人にしか見えない」

「…うん」

俺とシルナは、一心不乱にちゅちゅ~るにむしゃぶりつくマシュリを見つめてそう言った。

当然マシュリはそれどころじゃないので、ひたすらちゅちゅ~るに夢中だった。

別に良いんだけどさ、舐めたきゃ舐めれば良いんだけど。

…せめて、猫の姿になってから食えよ。

人の姿で食ってるから、キャットフードに夢中になってるヤバい人にしか見えない。

…とりあえず。

マシュリが今後も、イーニシュフェルト魔導学院に滞在するのなら。

「…マシュリ用に、チョコ菓子じゃなくてちゅちゅ~る買い置きしておこう」

これ与えとけば喜ぶだろう。多分。
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