神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…マシュリが正気を取り戻したのは、ちゅちゅ~るの興奮が冷めてからだった。

「ごめん。ちょっと取り乱したよ」

「…おう」

ちょっとどころじゃなかったけど、まぁそういうことにしておこう。

…と言うか。

「マシュリ、お前は猫の姿になれるだけで、別に本物の猫って訳じゃないんだろ?」

「勿論」

だよな。

「それなのに、ちゅちゅ~るに興奮するのか…」

「興奮なんて…。他の食べ物よりちょっと美味しいだけだよ」

あれだけ夢中になってた癖に?

明らかにチョコレートより好きだろ。

「猫じゃらしは好きなの?」

と、令月が尋ねた。

いやまさかそんな、マシュリは猫の姿になれるってだけで、本物の猫じゃないんだから…。

「好きな訳じゃないよ。…ちょっと、見ると追いかけたくなるだけで」

「…」

…猫じゃん。

「キャットタワーは?」

「興味ないね。ちょっと登りたくなるだけだよ」

猫じゃん。

「猫と言えば…あ、そうだ。マタタビは?マシュリ君、マタタビ好き?」

「別に。嗅ぐと理性がなくなるだけだよ」

やっぱり猫じゃん。

「けりぐるみあげるよって言われたら?」

「何とも思わないね。…エビが良いな」

そうか、よく分かった。

お前は猫だ。

もう、何処に出しても恥ずかしくない立派な猫。

…おかしくね?

「ケルベロスって犬だろ…?何で猫…?」

「さ、さぁ…。『変化』することで、その動物の習性を若干…踏襲してるのかもしれないね…」

そういや、シルナも色んな分身を作れるけど。

シラミになろうがカマキリになろうが、砂糖に群がるのと同じ要領か…?

ケルベロスって犬とか狼に近いもんだと思ってたけど、マシュリの場合は猫なのか?

まぁ、可愛いから良いけどさ。

「『変化』って、別の姿に変われるんでしょ?」

「そうだよ」

「猫と、人間と…他にどんな姿になれるの?」

令月が尋ねた。

お、良い質問だ。

それは俺も知りたい。

「全ての生き物になれる訳じゃないけど、色々なれるよ」

「例えば?犬とか?」

「いや、犬は無理」

無理なのかよ。

…ケルベロスなのに…?

猫にはなれるのに犬は無理って、全国の犬派の皆さん大激怒だな。

「学院長せんせーみたいに、南京虫にはなれないの?」

「なれないけど…この人南京虫なの?」

「うん」

「うんじゃないよ、すぐり君。私はなんき、シルナトコジラミの分身を作れるだけで、本物のシラミじゃないから」

それを言うならマシュリだって、本物の猫ではないだろ。

「そもそも僕は、猫より小さい生き物には『変化』出来ないんだ」

…とのこと。

もとのケルベロスの大きさに比べたら、猫になれるだけでも充分小型化に成功していると言えるだろう。

さすがに猫より小さくはなれないらしい。

へぇ。
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