神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「猫未満にはなれない…じゃあ、学院長せんせーみたいに、虫にはなれないの?」

「そうだね」

そりゃ良かった。

シルナトコジラミならぬ、マシュリトコジラミまで発生したら。

ハウスクリーニング頼んで、学院中を消毒してもらうところだったぞ。

「なら、虫以外なら何でもなれるの?」

「何でもって訳じゃないけど…練習したものなら」

一応、『変化』するにはある程度の練習が必要らしい。

じゃ、いきなりトラになれとか、ライオンになれとか要求されても、すぐに『変化』することは出来ないんだな。

便利なように見えて、色々制約があるんだ。

「ふーん…。…河童とか?」

…何故最初に河童が思い浮かんだんだ?

「河童は無理」

マシュリも真面目に答えるなよ。

そりゃ無理だろ。何故河童…?

「水辺の生き物にはなれないんだ。元々ケルベロスは陸に住んでる種族だから」

「え、じゃあ河童は無理なの?」

「うん」

「なーんだ」

…河童見たかったのか?すぐりは。

水辺の生き物にはなれない…これも制約の一つだな。

ってことは、魚も無理なんだろうか。

海や川に住む生き物は、マシュリの管轄外なんだな。

あくまで陸の生き物限定、それも猫より小さい生き物にはなれない。

更に。

「それから…羽根のついた生き物も苦手だな」

羽根?

「羽根って言うと…鳥か?トンビとかワシとか…?」

「さっきも言った通り、ケルベロスは陸の生き物だから。空は飛べないんだ」

へぇ。

「…水辺ほど苦手でもないから、無理すれば羽根も生やせるけど…空を飛ぶのは苦手だよ」

だ、そうだ。

やろうと思えば出来るってだけでも、充分凄いよ。

マシュリの『変化』は、自由自在に好きな生き物になれる訳じゃないんだな。

そう思うと、実際マシュリが『変化』出来る姿は、意外と少ないのかもしれない。

まぁ、猫になれるだけでも充分だと思うけど。

シルナと違って、トコジラミにならない辺りは凄く良いと思う。

「羽久が私に…失礼なこと考えてる気がするよ…」

ボソッ、と何かを呟くシルナ。

それは気のせいだ。

「…ともあれ」

マシュリが猫になろうが人になろうが、トンビや河童になっても構わない。

姿形は変わっても、マシュリはマシュリなんだろ?

「『変化』して生徒をビビらせないなら、好きな姿でいてくれれば良いよ」

確か、人間の姿で居続けるのは負担なんだろう?

好きな姿に変わってくれれば良い。

生徒の目につかないところなら、いつでも何処でも。 

「あと、何か困ったことあったら言えよ」

「…困ったこと?」

困ったことって言ったら…困ったことだよ。

色んな意味でな。
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