神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
予告もなしに訪ねていったのに、彼はまるで僕を待っていたかのように。
ベッドに腰掛けて、両足を組んで僕を待ち構えていた。
「僕が来ること…分かってたの?」
「えぇ、まぁ。学院に来たときから、ずっと何か言いたそうでしたからね」
「…」
「そろそろ来るんじゃないかと思ってました」
…やっぱり、そうだったんだ。
「…君は…読心魔導師、なんだよね?学院長達が言ってた」
「えぇ、そうです」
…心を読む…読心魔法。
さり気なく使ってるけど、かなり特殊な魔法なんじゃないだろうか。
僕は魔導師ではないから、それがどんな性質の魔法なのか知らないが…。
でも、少なくとも…リリス様には、人の心を読むような能力はなかった。
「それは…リリス様の脳力?じゃないよね?」
「はい。読心魔法はリリスではなく、僕の能力です」
「…君は何なの?リリス様の眷属…?」
最初僕は、リリス様がこの男を触媒にして、体内に寄生しているのかと思っていた。
魔物にとって現世で暮らすのは、故郷を離れて外国に暮らすようなものだ。
現世の空気は肌に馴染まないし、居心地も良くない。
だから、リリス様はこの男を宿主にして、肉体を共有しているのかと思った。
…しかし。
「違いますよ。僕はリリスの…。…恋人であり、元契約者です」
ルーチェス・ナジュ・アンブローシアは、僕に向かって自らをそう説明した。
…恋人であって、元契約者?
それは…言葉通りの意味なのだろうか?
「えぇ、言葉通りです」
「君は…何?…召喚魔導師?」
「元々はそうでした。子供の頃にリリスと契約して…それ以来、ずっと一緒にいます」
驚いた。
あのリリス様が、よもや人間と契約して、契約召喚魔になるとは。
孤高の存在であったリリス様が…。
…それほどに…彼女は孤独に苛まれ、追い詰められていたのだろうか。
冥界にいた頃の、僕の知るリリス様は…とても威厳のある方だったけど、いつも何処か悲しそうな雰囲気を纏っていた。
『獣の女王』と呼ばれ、恐れ、畏怖されることを、酷く重荷に感じていたんだと思う。
何処か、僕と通じるところがあった。
僕はリリス様の孤独を理解出来たし、リリス様も多分、そうだったと思う。
だから…リリス様が突然、僕達眷属を置き去りにして、冥界を出て現世に行ってしまわれたときも。
僕はそれほど驚きはしなかった。
孤独に耐えられなくなったんだな、と思っただけだ。
その気持ちはよく分かる。
かく言う僕だって…冥界での暮らしに耐えられなくなって、現世に逃げてきた身なのだから…。
だが、どうやら…僕とリリス様が辿ってきた遍歴は、大きく異なっているようだ。
僕は冥界を出てから一度として、契約者となる召喚魔導師と出会うことはなかった。
しかしリリス様は、御身を捧げても構わないと思える相手に…契約者に、出会うことが出来たらしい。
それが、今僕の目の前にいる男。
ルーチェス・ナジュ・アンブローシアその人である。
ベッドに腰掛けて、両足を組んで僕を待ち構えていた。
「僕が来ること…分かってたの?」
「えぇ、まぁ。学院に来たときから、ずっと何か言いたそうでしたからね」
「…」
「そろそろ来るんじゃないかと思ってました」
…やっぱり、そうだったんだ。
「…君は…読心魔導師、なんだよね?学院長達が言ってた」
「えぇ、そうです」
…心を読む…読心魔法。
さり気なく使ってるけど、かなり特殊な魔法なんじゃないだろうか。
僕は魔導師ではないから、それがどんな性質の魔法なのか知らないが…。
でも、少なくとも…リリス様には、人の心を読むような能力はなかった。
「それは…リリス様の脳力?じゃないよね?」
「はい。読心魔法はリリスではなく、僕の能力です」
「…君は何なの?リリス様の眷属…?」
最初僕は、リリス様がこの男を触媒にして、体内に寄生しているのかと思っていた。
魔物にとって現世で暮らすのは、故郷を離れて外国に暮らすようなものだ。
現世の空気は肌に馴染まないし、居心地も良くない。
だから、リリス様はこの男を宿主にして、肉体を共有しているのかと思った。
…しかし。
「違いますよ。僕はリリスの…。…恋人であり、元契約者です」
ルーチェス・ナジュ・アンブローシアは、僕に向かって自らをそう説明した。
…恋人であって、元契約者?
それは…言葉通りの意味なのだろうか?
「えぇ、言葉通りです」
「君は…何?…召喚魔導師?」
「元々はそうでした。子供の頃にリリスと契約して…それ以来、ずっと一緒にいます」
驚いた。
あのリリス様が、よもや人間と契約して、契約召喚魔になるとは。
孤高の存在であったリリス様が…。
…それほどに…彼女は孤独に苛まれ、追い詰められていたのだろうか。
冥界にいた頃の、僕の知るリリス様は…とても威厳のある方だったけど、いつも何処か悲しそうな雰囲気を纏っていた。
『獣の女王』と呼ばれ、恐れ、畏怖されることを、酷く重荷に感じていたんだと思う。
何処か、僕と通じるところがあった。
僕はリリス様の孤独を理解出来たし、リリス様も多分、そうだったと思う。
だから…リリス様が突然、僕達眷属を置き去りにして、冥界を出て現世に行ってしまわれたときも。
僕はそれほど驚きはしなかった。
孤独に耐えられなくなったんだな、と思っただけだ。
その気持ちはよく分かる。
かく言う僕だって…冥界での暮らしに耐えられなくなって、現世に逃げてきた身なのだから…。
だが、どうやら…僕とリリス様が辿ってきた遍歴は、大きく異なっているようだ。
僕は冥界を出てから一度として、契約者となる召喚魔導師と出会うことはなかった。
しかしリリス様は、御身を捧げても構わないと思える相手に…契約者に、出会うことが出来たらしい。
それが、今僕の目の前にいる男。
ルーチェス・ナジュ・アンブローシアその人である。