神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
この男が、リリス様のお眼鏡に適ったのか。

しかも…契約者であるだけではなく。

今…恋人…と言わなかったか?

「君は…リリス様の恋人、なの?」

「えぇ、そうです。僕はリリスの恋人です」

自慢でもするかのように、きっぱりと言った。

…恋人、恋人ね。

どうやら、この男が一方的にそう思い込んでいるだけ…という訳じゃなさそうだ。

人間と…魔物が…。

「驚くようなことではないでしょう?人間と魔物が恋仲になる…。…あなたなら、よく知っているはずですよ」

「…勿論、嫌と言うほどよく知ってるよ」

それは皮肉か。

人間と、契約した魔物が結ばれ…その結果生まれた異形の成れの果て。

リリス様も、僕の祖先と同じ過ちを…。

それほどまでに、あの方は…強く思い詰めて…。

…。

「…君がリリス様の契約者だってことは分かった」

それは納得しよう。

リリス様は孤独に苦しんでおられた。だからこそ、人間と契約することでその孤独を紛らわせようとしたのだろう。

彼女は僕と違って、異形のバケモノなどではない。

誰より強く、そして美しい方だ。

契約者を見つけることも、僕よりずっと容易いだろう。

そんなリリス様に選ばれたのが、このナジュという男…。

…それで?

「君はどうして、契約のみならず…リリス様をその身に宿している?」

魔物と召喚魔導師の契約は、あくまで召喚魔導師の血と魔力を対価に、魔物の力を貸すだけに留まる。

魔物と融合する契約、なんて聞いたことがない。

この二人が、通常の契約関係ではないのは明らかだ。

「リリス様は何処に…?」

「…いますよ、僕の中に」

ナジュという男の中に…?

「あなたはどうやら、リリスが僕の身体を乗っ取って支配している…と思ってるようですが」

…違うのか?

てっきり僕は、リリス様が契約によってこの男を利用しているものだと…。

「違います。むしろ逆ですよ…リリスは僕を守る為に、僕にその身を捧げてくれたんです」

「…」

「肉体を失っても…僕を生かすことを選んでくれたんです。…愛しているが故に」

…魔物と人間の愛。

その為にリリス様は、自らの肉体を失ってでも…ナジュを生かしたのか。

その人と融合することによって、リリス様は愛する者との永遠を手に入れたのだ。

しかし、それがどれほど残酷な選択肢だったか。

そのせいで、どれほどこの二人が苦しんで生きてきたか。

心を読めない僕には、推し量ることは出来なかった。
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