神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「私を恨まないの…?」
恨む?まさか。
「あなたには感謝こそすれ、恨みなど全くありません」
リリス様は冥界にいた頃からずっと、僕に優しかった。
同種からも他種族からも疎まれ、迫害されていた僕を、彼女だけは差別しなかった。
あの頃僕は、リリス様が慈悲の気持ちで、僕に情けをかけてくれているのだろうと思っていた。
でも、そうじゃなかったんだな。
自身もまた、人間の契約者と結ばれて、その身を捧げてまで共にあろうとした。
リリス様は慈悲ではなく、真心から僕を庇ってくれていたのだ。
今になってようやく、それが分かった。
その上で、どうして僕がリリス様に恨み言をぶつけるなどということが出来ようか。
リリス様は、僕の理解者だった。
ならば僕もまた、リリス様の理解者となろう。
「…あなたに、またお会い出来て良かった。僕は臣下として、リリス様の幸福を願っています」
「…マシュリ君…。…ありがとう」
リリス様が長い旅路の果てに、自分の居場所を見つけられて良かった。
羨ましい。
僕も、そうだったら良かったのに。
「マシュリ君、私がこんなこと言えた義理じゃないかもしれないけど…。君さえ良ければ、君もずっとここに…」
リリス様は、僕を心配しているような口調でそう言った。
お世辞じゃなくて、本心からそう言ってくれているのだと分かる。
…相変わらず、お優しい方だ。
ナジュという男は幸せ者だな。リリス様に愛されて。
「…ありがとうございます」
その気持ちは、有り難く受け取っておく。
…でも…そういう訳にはいかない。
どれほど寂しくて、辛くて…自分の居場所に恋い焦がれても。
決してその場所に、僕の手が届くことはないのだ。
「ですが…僕には無理です。あなたもお分かりでしょう…?」
「…」
リリス様は答えず、黙り込んでしまった。
そう、駄目なんですよ。あなたも分かっていると思うけど。
あなたの手は届いた。
でも、僕の手は届かない。
だからってリリス様を妬む気持ちはない。
リリス様が手に入れられたものを、僕はどうやっても手に入れることは出来ない。
どうしようもない、これが僕の定めなのだ。
…せめてリリス様だけでも、僕達が恋い焦がれていたものを手に入れられて良かった。
そう思うしかない。
「お話出来て光栄でした、リリス様…」
「マシュリ君…」
「お姿が変わっても、変わらず僕はあなたの臣下です。必要があれば、何でもお申し付けください」
多くの同胞がそうしたように、僕はリリス様を見限るような真似はしなかった。
…せめて僕だけは、リリス様のお役に立とう。
どうせ僕は…ここには長く居られないのだから。
だからせめて、そのときまでは…。
恨む?まさか。
「あなたには感謝こそすれ、恨みなど全くありません」
リリス様は冥界にいた頃からずっと、僕に優しかった。
同種からも他種族からも疎まれ、迫害されていた僕を、彼女だけは差別しなかった。
あの頃僕は、リリス様が慈悲の気持ちで、僕に情けをかけてくれているのだろうと思っていた。
でも、そうじゃなかったんだな。
自身もまた、人間の契約者と結ばれて、その身を捧げてまで共にあろうとした。
リリス様は慈悲ではなく、真心から僕を庇ってくれていたのだ。
今になってようやく、それが分かった。
その上で、どうして僕がリリス様に恨み言をぶつけるなどということが出来ようか。
リリス様は、僕の理解者だった。
ならば僕もまた、リリス様の理解者となろう。
「…あなたに、またお会い出来て良かった。僕は臣下として、リリス様の幸福を願っています」
「…マシュリ君…。…ありがとう」
リリス様が長い旅路の果てに、自分の居場所を見つけられて良かった。
羨ましい。
僕も、そうだったら良かったのに。
「マシュリ君、私がこんなこと言えた義理じゃないかもしれないけど…。君さえ良ければ、君もずっとここに…」
リリス様は、僕を心配しているような口調でそう言った。
お世辞じゃなくて、本心からそう言ってくれているのだと分かる。
…相変わらず、お優しい方だ。
ナジュという男は幸せ者だな。リリス様に愛されて。
「…ありがとうございます」
その気持ちは、有り難く受け取っておく。
…でも…そういう訳にはいかない。
どれほど寂しくて、辛くて…自分の居場所に恋い焦がれても。
決してその場所に、僕の手が届くことはないのだ。
「ですが…僕には無理です。あなたもお分かりでしょう…?」
「…」
リリス様は答えず、黙り込んでしまった。
そう、駄目なんですよ。あなたも分かっていると思うけど。
あなたの手は届いた。
でも、僕の手は届かない。
だからってリリス様を妬む気持ちはない。
リリス様が手に入れられたものを、僕はどうやっても手に入れることは出来ない。
どうしようもない、これが僕の定めなのだ。
…せめてリリス様だけでも、僕達が恋い焦がれていたものを手に入れられて良かった。
そう思うしかない。
「お話出来て光栄でした、リリス様…」
「マシュリ君…」
「お姿が変わっても、変わらず僕はあなたの臣下です。必要があれば、何でもお申し付けください」
多くの同胞がそうしたように、僕はリリス様を見限るような真似はしなかった。
…せめて僕だけは、リリス様のお役に立とう。
どうせ僕は…ここには長く居られないのだから。
だからせめて、そのときまでは…。