神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
しばらく見ないと思ったが、ちゃんと国内に…帝都にいたんだな。

ルディシアは、マシュリと違って学院ではなく、聖魔騎士団の方に世話になっているそうなので。

マシュリみたいに、毎日俺達と顔を合わせることはない。

「悪かったよ…。別に他意はないから安心してくれ」

「…ふーん…」

と、どうでも良さそうなルディシアである。

こいつも大概図太いよな。

それに対してマシュリがあまりにも繊細だから、この二人はお互いの性格を足して二で割るべきだな。

「どうだ、ルディシア…。聖魔騎士団…いや、ルーデュニア聖王国の居心地は?」

この際だから、改めて感想を聞いておこう。

特に、アーリヤット皇国と比べてどう思う?

彼の国より、我が国の方が居心地が良いのではないか…という、ちょっとした対抗意識の現れである。

誰しも、自分の国が一番だと思いたいもんだ。

住めば都って言うしな。

「何?いきなり…」

「良いから、率直な意見を頼むよ」

「ふーん…?まぁ、悪くはないんじゃない?」

…だ、そうだ。

悪くないじゃなくて、良いって言って欲しかったな。

贅沢かもしれないが。

まぁルディシアは素直じゃないから、口では悪くないとか言いながら。

心の中では「居心地最高!」って思ってるかもしれない。

そういうことにしておこう。

…しかし。

「気持ち悪いくらい誰も彼も親切で、気持ち悪いね」

「…」

…本当素直じゃないよな。

それとも何だ。本気で気持ち悪がってるのか?

どうすれば良いんだよ。むしろ冷たくされた方が落ち着くタイプ?

ドMかよ。マシュリと一緒じゃん。

「あのな、ルディシア…」

「そんなことより、あいつは何処?」

そんなことって何だよ。大事なことだろ。

…あいつ?

「誰だ?あいつって…」

「この学院で、もう一人『HOME』の軍属魔導師を保護してるって聞いたけど?」

あぁ、成程。

ルディシアが誰のこと言ってるのか分かった。

「マシュリだな?」

「そんな名前なの?知らないけど」

おいおい。

同僚だったんじゃないのかよ。名前も知らないのか…?

いくら、ルディシアが他人に興味ない性格と言っても…。

「マシュリに会いに来たのか?あいつなら今…多分猫になってると思うけど」

昼間の間は、生徒達に見られても良いように、猫としていろりの姿で生活し。

生徒達が学生寮に帰る頃になったら、人間の…マシュリの姿に戻る。

今のところ、それで上手いこと折り合いをつけているようだ。

今は昼間だから、多分いろりの姿だな。

「猫?」

「『変化』の力だよ…。…本当に知らないのか?お前…」

「知ったことじゃないね。『HOME』には半端者…。リカント(獣人)が所属してる、とは聞いてたけど」

随分アバウトな情報だな。

その程度の認識しかなかったのか?同僚なのに…。

聖魔騎士団魔導部隊の大隊長達は、割と皆仲が良いから。

同僚なのに、お互いの能力どころか名前すら知らない、という遠い距離感を理解し難い。

「おぞましいリカントだけど、利用価値はある…って噂だったのに、あっさり裏切ったそうじゃん?」

ルディシアは、意地悪く笑いながらそう言った。

…お前…。

本当、マシュリに比べると性格悪い。
< 215 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop