神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…犬、って…お前…。

…どっちかと言うと、マシュリは猫だろ。

「ルーデュニア聖王国に寝返ったっていうのは、本当だったんだね」

「…そっちこそ」

マシュリの方も、負けじとルディシアに言い返した。

「噂には聞いていたよ。皇王がネクロマンサー…死体を操る能力の持ち主を飼っているって」

「飼う…?冗談じゃないね。俺はあの人に飼われてた覚えはない」

「僕の方も、皇王の犬になった覚えはないよ」

…何だろう。

元同僚のはずなのに、凄くギスギスした雰囲気。

和気あいあいと昔話に花を咲かせてくれ…とは言わないが。

同じ組織に所属していた者同士、そして今は同じくルーデュニア聖王国に亡命した仲間同士。

もうちょっと…友好的に接してくれないものだろうか。

『アメノミコト』から寝返ったばかりの令月とすぐりを彷彿とさせる。

いや、あの二人は…もっと仲悪かったけど。

すぐりなんて、令月に向かって「死ね」とか普通に言ってたもんな。

あれに比べたら、ルディシアとマシュリは…まだ仲良しな方なのかも。

くそ、何でこんなときにシルナは不在なんだ。

シルナがいたら、今頃お茶菓子でも囲んで、落ち着いて挨拶くらいは出来ただろうに。

こんなときにあいつ、今学院を留守にしてるんだよ。
 
何処に行ったのかって?

帝都のケーキ屋に、チョコケーキ買いに行ってる。

アホだろ?

ちなみにあの後、結局チョコケーキが大量に余って。

本当に、翌日の朝食のデザートに、全校生徒にチョコケーキが一切れずつ配られた。

「朝からケーキ…」って、生徒達皆、呆然としてたぞ。

ごめんな、マジで。

それなのにシルナの奴、懲りずにまたケーキ買いに行きやがった。

「チョコクリームのケーキより、皆、シンプルなザッハトルテの方が好きなのかもしれない」って、真剣な顔で言って。

そういう問題じゃないだろ、と突っ込みたかったが。

それを突っ込む前に、シルナは意気揚々とケーキ屋に出掛けてしまった。

もう好きにしてくれ。

…ともかく。

シルナがいないなら仕方ない。俺が何とか…二人の間に入って、緩衝材の役割を果たすとしよう。

まさか、ここで喧嘩を始めるとは思えないが…。

「お前ら、喧嘩するなよ」

一応、そう言って釘を差しておくと。

「喧嘩?何で?」

「ネクロマンサーに喧嘩を売るほど、僕は考えなしじゃないよ」

ルディシアは首を傾げ、マシュリは真顔でそう答えた。

あ、そ、そう…。

なら、良いけど…。

冷静なんだか頭に血が上ってるのか、分かりづらい二人だ。

「それより俺が聞きたいのは、その皇王のことだよ」

と、ルディシアが話を戻した。

皇王…ナツキ様のことだな?

「あの人、俺が裏切ってからどうなってたの?何か聞いた?」

…それは俺も気になってる。

懐刀だったに違いないルディシアを、みすみす失う結果になって。

ナツキ様は、どういう反応をしたんだろう?
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