神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…しかし、マシュリの返事は。

「さぁ、特には…。僕の知る限りでは、大して変わった様子はなかった」

…意外とあっさりしてるんだな、ナツキ様って。

令月達に裏切られて、怒髪天を衝いて刺客を大量に送り込んできた、『アメノミコト』頭領の鬼頭夜陰とは大違いだ。

まぁ、ルディシアはこの自由奔放な性格だからな。

ルディシアのことは、いつ裏切っても不思議はないものと割り切っていたのかもしれない。

役に立ってくれれば良し、そうでないならそれでも構わない…。

部下に執着しないタイプなのかも。

ルディシアを匿っている側の俺達にとっては、この場合有り難いが。

それだとナツキ様は、自分の部下を手駒の一つとしか捉えていない…ってことになるもんな。

下につく者としては、あまり愉快な気持ちではないだろうな。

「あっそ…。やっぱりあの人、さして俺に期待してた訳じゃないのか」

「ルディシア…。言っておくが、それは決してお前が役に立たないからとか、そういう意味じゃ…」

「俺が役に立たない?誰がそんなこと言った訳?」

…お前には、そういうフォローは必要ないらしい。

心配しなくても、ルディシアは俺より遥かに図太かった。

「まぁ、本気で俺がシルナ・エインリーをどうにか出来る…とは思ってなかったんだろ。上手く行けばめっけ物、くらいに考えてたんじゃないかな」

「…」

「大体、本気でシルナ・エインリーの首を獲るつもりなら、俺には頼らないだろうし」

…ナツキ様が本気なら、もっと信頼の置ける部下を寄越す…か。

そうだろうな。

暗殺者の役目を果たす者が、こんなに自由奔放な性格じゃな。

確かに、ネクロマンサーは珍しいし、初見殺しにはうってつけかもしれないが。

イレースの拳骨一発で寝返るような部下に、大切な任務は任せられまい。

「その点、君は…皇王にとっては、そこそこ本命の切り札だったんじゃないの?」

ルディシアは、マシュリを指差してそう言った。

マシュリが…ナツキ様の切り札?

マジで…?

「俺を陽動係にして、油断させたところに本命の君をぶつける…。いかにもあの王様が考えそうな、姑息な手だと思うけど」

元上司相手に、言いたい放題のルディシアである。

しかし…失礼を承知で言わせてもらうと、俺もその意見に賛同だ。

わざわざ二人の刺客を送ってきたということは、それなりの考えあってのはず。

ルディシアを陽動に、本命のマシュリ…そう考えるのが妥当だが。

結局、陽動も本命も失敗してるんだから世話ないよな。

このまま諦めてくれたら、もっと良いんだけど。

「それは分からない。僕はただ、前任者…ルディがしくじったから、お前が代わりに行ってこいって…そう言われただけで」

と、マシュリ。

ルディ…って、ルディシアのことだよな?

「出来ないなら、お前に価値はないって…。…そう言われたから…」

「…」

マシュリの価値が…何だって?

マシュリという人間の価値も分からないなんて、ナツキ様も案外、人を見る目がないようだ。
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