神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「悪いけど、アーリヤット皇王…ナツキ・スイレンの思惑は、僕には分からない」

と、マシュリは言った。

「ルディに続いて、僕もしくじったこと…そろそろ耳に届いてると思うけど…」

「だろうな…」

ルディシアに続いて、マシュリまで失敗して。

それどころか、憎きルーデュニア聖王国に寝返ったともなれば。

憤慨しているだろうか?

それとも、想定内だと強がっているのだろうか。

いずれにしても、愉快な気持ちではあるまいな。

「まだ他にも、刺客を送るつもりなのか…。それとも諦めるのか…」

俺達としては、永久に諦めて欲しいな。

何ならこれを機に心を入れ替えて、ルーデュニア聖王国と仲良くして欲しい。

…が。

「でも、あの人がそう簡単に引き下がるとは思えない」

「…俺もそう思う」

一度や二度失敗した程度で、あっさり諦めるくらいなら。

最初から、シルナの暗殺なんて考えないだろうよ。

実際にこうして、刺客を送りつけてきてるんだ。そう簡単には諦めないだろう。

「俺達の他にも、『HOME』には皇王の懐刀が何人もいる。今度はもっと、信頼の置ける忠実な部下を送るつもりなんじゃない?」

ルディシアは半笑いで、面白がるようにそう言った。

あのな。笑い事じゃないからな。言っとくけど。

「笑えねーよ」

ネクロマンサーとリカントだけで、俺達は既にお腹いっぱい状態なんだからな。

どうするんだよ。ルディシアやマシュリクラスの屈強な戦士が、この後何人も攻めてきたら。

さすがに逃げ切れる気がしねぇ。

「来るなら来れば良いよ。死者に勝てる生者なんていない。返り討ちにしてやるから」

ルディシアは、好戦的な笑みを浮かべていた。

敵にすると恐ろしいが、味方にするとこれほど心強いとは。

更に、マシュリも。

「皇王が何を考えているにせよ、この国に拾ってもらった恩は返すよ」

「…そりゃどうも」

心強いことこの上ない。

俄然、何とかなりそうな気がしてきたな。

…が、やはり理想としては、このままナツキ様が諦めて、引き下がってくれるのが一番。

ルディシアにしてもマシュリにしても、二人に頼らずに事を解決出来るなら、それに越したことはない。

「何考えてるんだろうな、ナツキ様…」

こればかりは、ナジュにでも見てもらわないと分からないな。
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