神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…一体誰の許可を得て、猫を飼うなんて無断で決めたんです?」

「う、そ、それは…」

シルナの方が上司のはずなのに、完全に立場が逆転してるな。

「生徒の前で良いところ見せたくて、『私が説得するから大丈夫』って胸を張って言ったんですよね」

と、ナジュが言った。

超笑顔で。

やっぱりあれ、ええかっこしいだったんだ。

「ちょ、ナジュ君!余計なこと言わないでって!」

「…生徒の前で格好つけたいが為に、猫を飼うことを許したと…?」

「ひぇっ。ちが、そ、そうじゃなくて。ね、猫ちゃんを見捨てられなかっただけだよ!」

…どうしたもんか。

圧倒的に、シルナが形勢不利だぞ。

「良いですか。この際だからはっきり言っておきましょう」

と、イレース。

「イーニシュフェルト魔導学院は、魔法の勉強をする為の学校です。猫を飼う場所ではありません」

「…それは…」

「大体、うちの学院では既にパンダを一匹飼っているでしょう。これ以上ペットが増えるのはたくさんです」

「…イレースちゃん。そのパンダって…もしかして私のこと…?」

涙目のシルナだった。

仕方ないな。普段の行いのせいだ。

「学生の本分は勉学です。彼らはここに魔導の勉強をしに来たのであって、猫を飼う為に来たのではありません」

「それは…そうなんだけど…」

しどろもどろになりながら頷くシルナを見て、ナジュが半笑いで一言。

「頭かったいですよね〜。猫の一匹くらい別に良いじゃないかと思いますけど」

「…何か言いましたか?」

おい。お前不死身だからって、発言には気をつけろよ。

「…って、天音さんが言ってました」

「えぇっ!?僕!?」

そして天音に責任を擦り付けるな。

「だ、大丈夫だよイレースちゃん。ちゃんと当番を決めて、責任持って皆で、」

「そんなものは最初だけです。どうせしばらくすれば、飽きて世話をしなくなるに決まってます」

ペット飼い始めるときの子供あるある。

うちの生徒はそんな無責任なことはしない、と信じたいものだが。

「じっ、じゃあ…イレースちゃんはこの猫ちゃんをどうすれば良いって言うの?ま、まさか保健所送りに…!?」

情に訴える作戦。

しかし、イレースが怯む様子は全くなく。

「もらわれ先がなく保健所に送られるなら、それはその猫の定めというものでしょう」

割り切ってんなぁ。

「それに、まだ殺処分と決まった訳じゃありません。ここで飼わなくても、里親を探してそこに預ければ良いじゃないですか」

…確かに。

自分のとこじゃ飼えないんだから、飼える人を募集して、そこに預ければ良いのでは?

シルナの名前で里親を募れば、一人二人くらいは手を上げる人がいるだろう。

…多分。

「それじゃ駄目だよ!ここで、学院で飼ってあげたいんだよ」

しかし、生徒に約束した手前、シルナも簡単には引き下がれない。

あんな約束するから…。
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