神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「あの男のもとに、刺客など送っても無駄だ。みすみす仲間を失う羽目になる」

「…」

「それどころか、敵に塩を送るようなものだ。次に会うときは、ネクロマンサーも魔物も敵になっている。シルナ・エインリーに戦力を与えただけだ」

「…」

「刺客など送るべきではないと、私は言ったはずだ。ましてや、忠誠心の欠片もないような者を…」

…ぺらぺらと、よく喋る女だ。

「黙っていろ」

この俺に、偉そうに講釈を垂れるな。

自分だって、忠誠心の欠片も持ち合わせていない癖に。

「俺には俺の考えがある。お前に口出しされる謂われはない」

「…考えだと?部下二人に裏切られるのが、お前の考えか?」

本当にそのように見えたのなら、お前の目は節穴だな。

「アルデン人の女を、みすみす殺し損ねてしまったのは口惜しいが…」

だが、それも想定内だ。

あの二人が、何の目的も達成出来ずに、のこのこ逃げ帰ってくることも。

それどころか、二人して敵側に回ることも。

全て想定内だ。

奴らが上手く目的を達成してくれていれば、もっと話は簡単だったんだがな。

この女の言う通り、一筋縄では行かないということなのだろう。

それがよく分かった。

だが、俺はそうなったときに備えて、既に手を打ってある。

「奴らの裏切りも想定内だ。何も問題はない」

「問題はない、だと…?敵に塩を送っておいて、何を…」

馬鹿な女め。

憎々しげにこちらを見つめるヴァルシーナ・クルスを、俺は鼻で笑い飛ばした。

所詮は小娘だな。

「奴らは俺の仲間などではない。ハナから俺は、奴らを道具の一つとしか思っていない」

仲間を失った、とお前は言ったな。

だが俺は、所詮自分の部下を仲間などとは思っていない。

奴らはただの道具だ。

そして、役目を果たせない道具に、存在する価値はない。

俺は役立たずの道具を捨てただけだ。

シルナ・エインリーが、その捨てられた道具を勝手に拾って、自分のものにしているに過ぎない。

所詮奴らは捨てられたガラクタ、粗大ごみ同然だ。

「勿論お前のこともな。…ヴァルシーナ・クルス」

「…」

ヴァルシーナは、険しい表情で俺を睨みつけた。

勝手にしろ。

俺と手を切って困るのはお前の方だ。俺ではない。

ヴァルシーナが作戦を持ちかけてこなったとしても、いずれは決行するつもりだった。

予定が少し早まっただけ。

俺のやるべきことは、一つだけだ。

「全ては計画通り。役立たず共がルーデュニアに寝返るのも、想定済みだ」

「…どうするつもりだ?」

どうするつもり、だって?

協力者とはいえ、異国人にまでご丁寧に教えてやるつもりはない。

「黙って見ていろ。今に分かる」

「…」

ヴァルシーナは睨みつけてきたが、俺は意に介さない。

代わりに俺は、コクロの方を向いた。

「計画は第二段階だ。…予定通り進めろ」

「畏まりました。陛下」

裏切った二人には勿論。

裏切り者を匿った馬鹿な連中にも、たっぷりと後悔してもらおう。
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