神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…アーリヤット皇国で、不穏な陰謀が渦巻いているとも知らず。




ルーデュニア聖王国は、束の間の平穏を満喫していた。

「明日は学院がお休みだから、マシュリ君を帝都に案内してあげようかと思うんだ」

朝の職員会議のとき、シルナがそう提案した。

…全く学院に関係ないことを、当たり前のように職員会議で喋っている。

「何です、藪から棒に…。職員会議で話すことですか、それは」

案の定、イレースにじろりと睨まれている。

しかし、シルナは。

「だ、だって。皆が集まったときに話そうと思って」

「あなたという人間は、もう何年も学院長を務めていながら、学院長として気の利いたことが言えないんですか?」

「い、い、言えますん!」

言えないようだな。

「マシュリ君をね、帝都に案内してあげたいんだよ。折角ルーデュニアに来てくれたんだから、もっとこの国を好きになって欲しいでしょ?」

そりゃまぁ、そうだけど。

でもそれって、わざわざ職員会議で話す必要のあることなのか?

「だから、皆でマシュリ君を案内してあげようよ。どう思う?」

という、シルナの問いかけに答えたのは。

俺達教員連中ではなく。

「うん、良いんじゃないかな。僕も賛成だよ」

「この国って、色んなところが特殊だもんねー。話して聞かせるより、実際自分の目で見た方が分かりやすいよね」

令月とすぐりが、うんうんと頷きながらそう答えた。

何故、職員ではないお前達が、当たり前のように職員会議に参加しているのか。

俺もあんまり驚かなくなってきたよ。

「…あなた達…」

「…!危ない」

「逃げよーっと」

こめかみにピキピキと血管を浮き立たせたイレースを見て。

さすがの危機察知能力を発揮した二人は、急いで窓から逃げていった。

命拾いしたな。

窓から出るな。扉から出ろ。

…に、しても。

マシュリを…帝都セレーナに案内する、か。

職員会議で言うことじゃないのは確かだが、しかし、シルナにしては悪くない提案だ。
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