神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
さて、それではシルナの次は。

イレースの、王都セレーナのおすすめスポットである。

何処に連れて行かれるのかと思ったら…。

「私が紹介するのは、ここです」

「…お、おう…」

連れてこられたのは、王都にある「セレーナ歴史資料館」という施設であった。

その名の通り、王都の古い歴史を写真や模型で解説する、博物館のような場所である。

王都セレーナの小学校の社会見学で、恐らく最も定番のスポット。

…そして、小学生達にとっては、最もつまらないであろうスポットだ。

案の定。

「うわー。何これつまんない」

「5分で飽きるね」

すぐりと令月の二人は、ぼそっとそう溢していた。

…大人にとっても、余程その分野に興味でもない限りはつまんない場所だもんな。

子供にとっては、ますますうんざりする場所に違いない。

しかし、イレースは。

「だって、マシュリさんに王都を紹介するのが今日の趣旨でしょう?なら、まずは王都の歴史を知ることから始めるべきです」

…だ、そうだ。

間違ってはいない。間違ってはいないけど…。

…正直、俺もちょっと退屈だった。

シルナにとってもそうだろうな。

大体、俺達ルーデュニア聖王国建国時から、この国にずっといる訳で…。

王都の歴史なんて教えられても、今更って言うか…。

読み飽きた本を何度も読まされてる気分。

天音とナジュの反応はと言うと。

「へぇ、王都セレーナの歴史…。…わぁ、こんな昔からあったんだね。しかも、今とほとんど変わらない場所に…」

天音の方は、結構乗り気で展示物を眺めていた。

当時の写真とか、市民が実際に使っていた道具や着物の切れ端なんかが、ガラスケースの中に展示されている。

その一つ一つを、天音は丁寧に観覧していた。

意外と天音にはウケてるな。

更に。

「うわ、見てくださいよ天音さん。これ、建国当時国内にあった図書館の本ですって」

「本当だ。古いけど、まだちゃんと形が残ってるね」

「保存状態が良いんでしょうね。建国以来、王都セレーナは一度も焼けていないと聞いてますから」

「そっか。確かに、ルーデュニア聖王国は大きな戦争を経験したことがないんだよね」

ナジュの方も、天音と一緒に、意外と乗り気で展示物を見ている。

へぇ。意外。

休みの日に一日中恋人とイチャつくような奴が、王都の歴史に興味があるとは。

人は見かけによらないって、あれ本当なんだな。

「…羽久さんは、僕のことを何だと思ってるんですか?」

くるりと振り向くナジュ。

うるせぇ。
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