神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
すると。

「あ、ナジュ君これ見て。建国当初のイーニシュフェルト魔導学院だって」

おっと。見つけたな?

天音が指差したのは、ルーデュニア聖王国が建国された当初。

ほぼ同時期に、王都セレーナに出来たばかりのイーニシュフェルト魔導学院の写真だった。

俺にとっても懐かしいよ。

建国時から存在してるんだぞ、俺達の学院って。

ルーデュニア聖王国の歴史は、すなわちイーニシュフェルト魔導学院の歴史でもあるということだ。

「写真を見たところ…建物の外観は、今とほとんど変わらないね」

「でも、さすがに当時の建物のまま、ってことはないですよね?」

「当たり前だ」

今に至るまで、何度も改修工事は行っている。

が、天音の言う通り。

建物の外装は、建国時からほとんど変わっていない。

出来るだけ外装は変えないように、歴史を守っているのである。

「成程…。古臭い外観の建物だと思ってましたけど、それなりの理由があるんですね」

古臭い言うな。

学院が出来たばかりの頃は、あれが流行の最先端だったんだよ。

「どうだ、マシュリ…。感想は?」

いくら俺達がセレーナの歴史を再確認しても、マシュリが楽しめなきゃ意味がない。

マシュリの反応はと言うと…。

「興味深いけど、僕の場合…現世そのものが目新しいから」

…そういえば、そうだった。

マシュリって、冥界生まれ冥界育ちなんだった。

「王都の沿革を見せられても…これが一般的なのかそうじゃないのか…。…平和だったのは確かなようだけど」

冥界っ子のマシュリにとって、王都セレーナの歴史を見せられても、いまいちピンと来ないらしい。

そりゃそうだ。気づかなかった俺が悪かった。

まぁ、平和なのは確かだな。

争いの火種がなかった訳じゃないのだが、大抵はボヤのうちにシルナが揉み消しているから…。

「僕も色んなところ旅して回ってましたけど、これほど平和な都市は珍しいですよ」

と、ナジュ。

そういや、ナジュの故郷はずっと戦争してたんだもんな。

「そうなんだ。…良いね、平和な国で」

…この平和を守る為に、結構苦労してるんだよ。これでも。

「折角だから、一通り見ていってくれ。後学の為に」

「分かった。そうするよ」

少なくとも、シルナおすすめのケーキ屋よりは有意義だと思うよ。
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