神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
セレーナ歴史資料館を見て回った後は。

「令月、すぐり。お前達は何処に案内してやるつもりなんだ?」

と、俺は元暗殺者組に尋ねた。

当たり前みたいな顔して、お前らもついてきてるけどさ。

よくよく考えたら、この二人もどちらかというと、王都を案内するより案内される側の立場だよな。

確かに、マシュリよりはルーデュニア歴長いけど。

つい数年前まで、二人共ジャマ王国で暮らしていた訳で。

二人共まだ、案内するほど王都に慣れていないのでは?

…と、思ったが。

「任せてよ。王都のことなら何でも、何処でも紹介してあげるよ」

妙に自信満々なすぐりである。

その自信は何処から?

「うん。僕達も、伊達に深夜に王都を徘徊してないからね。王都の中なら、目を閉じてても歩けるよ」

成程、そういうことかよ。

深夜徘徊やめろって、何度言ったら分かるんだ?

補導されたら、教員である俺達の責任なんだが?

まぁ、補導なんかされる奴らじゃないけどさ。

夜の闇の中にこの二人を放したら、俺やシルナでも捕まえられないくらいだからな。

「そんな訳で、まず最初に紹介するのは、ここ」

と言って、令月が立ち止まって指差したのは。

…何のことはない。ただの寂れた裏路地。

…何故?

「な、なんかあるのか…?ここに…」

隠れた名店、みたいな?

いや…特に何もなさそうなんだが。

令月達にだけ見える何かがあるのか?

「この裏路地を真っ直ぐ行ったら、セレーナの大通りに繋がってる。表通りを行くよりずっと近道だよ」

…。

…そうなの?

「夜は勿論、昼間も人通りが極端に少ないからねー。逃走経路におすすめだよ」

と、更なる豆知識を披露するすぐり。

何から、何処から逃走するつもりだ?

「次に…ここ」

令月が立ち止まったのは、とあるマンホールの上。

「そこの交番から、数えて4つ目のマンホールね。ここの蓋は僕が壊しっ…。…ちょっと壊れてて、蓋が開くんだ」

今、壊したって言わなかった?

お巡りさん、この人です。

「ここを降りると、セレーナの地下下水道街に繋がってるよ。人に見られたくないときに街を歩くには、最適だね」

…そういうこと?

令月とすぐりのセレーナおすすめスポットって、そういうの?

セレーナ歴の長い俺でさえ知らなかった裏情報。

「あ、これ俺が作った、下水道の地図ね。これを見れば、迷わずに進めるよ。特別にあげるよ」

と言って、すぐりは下水道の複雑な地図を、マシュリに手渡していた。

いつの間に作ったんだよ、そんなもの。

つーか、そんなの人に渡すものじゃないだろ。

「そうなんだ。もらっておくよ」

マシュリも受け取るなよ。

下水道を道代わりにするな。普通に表を歩け。

「いや、あの…下水道って不潔だし、空気も汚いから、そんなところ通っちゃ駄目だよ…」

天音が正論を言った。

しかし。

「大丈夫だよ。よく通る道は、僕と『八千歳』で、定期的に掃除してるから」

「ぴっかぴかだよ。いやぁ街の清掃をすると気持ち良いよね~」

…だってよ。

本当、切実に、この二人。

俺達が見てない間に何処で何してるのか、見張っておきたい。
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