神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
それだけではない。令月とすぐりの、セレーナのおすすめスポット。

スポットって言うか…裏道…?

「あ、この家」

すぐりが、とある一軒の寂れた家の前で立ち止まった。

…この家が何だって?

入り口の柵は壊れ、庭は草が伸び放題。

窓も何箇所か壊れていて、人が住んでいる気配はない。

どうやら、空き家のようだな。

「この家は、僕と『八千歳』の秘密基地なんだ」

…。

…は?

令月がいつになくドヤ顔なのが、余計気になる。

お前そんな顔する奴だったっけ?

年相応で大変結構。だが、お前今何て言った?

「予備の武器と、潜入道具と…包帯や傷薬なんかも備蓄してあるよ」

「この辺りは外灯も少ないし、人通りも少ないからねー。二日、三日なら見つからずに潜伏出来るから、覚えといて」

こいつら。

空き家を、勝手にねぐらにしてるのか?

それは秘密基地じゃない。不法侵入だ。

「お前ら馬鹿か?人が住んでなくたって、他所様の家なんだぞ…!?」

バレたらどうするつもりなんだ?通報されるぞ?

あ、いや。この二人に限って、潜入がバレるなんて有り得ないと思うけど。

しかし、バレなきゃ良いという問題ではない。

「いざというとき、身を隠すことが出来るセーフハウスは必要でしょ?」

何を当たり前のことを、と言わんばかりのすぐりである。

セーフハウス(人の家)。

済みません、本当。何処のどなたか存じませんけど、この家の持ち主。

勝手にお宅を秘密基地にしちゃって、本当に申し訳ない。

よく言って聞かせるので。

「今すぐ撤去しろ!」

「そんなこと言われても…ねぇ?」

「だよねー」

二人で納得するな。

「この家だけじゃなくて、他にも王都にいくつか、似たようなセーフハウスは作ってるし…」

マジで?

ここだけじゃねぇの?不法占拠。

「君にも、特別に使わせてあげるよ。はい、合鍵」

勝手に人の家の合鍵を作るな。

そして、それをマシュリに渡すな。

大盤振る舞いしたつもりか?

「分かった。使うよ」

マシュリも受け取るなって。使うな。

「…イレース、俺達は真剣に…この二人を学院に閉じ込めておかなきゃいけないんじゃないかと思い始めたところだ」

「…奇遇ですね。私もそう思います」

イレースのこめかみに、ピキピキと血管が浮いていた。
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