神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
イレースの堪忍袋の緒が切れる前に。

「では、次は僕と天音さんから、王都セレーナのおすすめスポットを紹介しますね」

と、ナジュが言った。

ナジュと天音、二人のおすすめスポットか…。

ナジュのおすすめスポットと聞いたら、不安しか感じないが。

ナジュと天音のおすすめスポットと聞いたら、途端に安心感が生まれるな。

「ちょっと羽久さん?何で僕だけだったら不安なんですか?」

「うるせぇ。それで天音、おすすめの場所って?」

「あ、うん…。もうすぐだよ。…ほら、あそこ」

と言って、天音が指差すと。

マシュリは何かを感じたらしく、ふと立ち止まった。

…どうした?

「…!同類の匂いがする…」

ど…同類?

って…まさか魔物の…。

「どういう意味だ、マシュリ。まさかお前の他にも、現世にいる魔物が、」

「違いますよ、羽久さん。…あれです」

ナジュが、小さな看板を指差した。

よくよく見てみると。

「…猫カフェ?」

「癒やしのひととき。猫カフェ『ラグドール』」という看板が立っている。

いや、あの…。

…同類って、そっち?

お前は身も心も猫なのか?

「ここ、天音さんの行きつけの猫カフェなんだそうです」

ナジュが教えてくれた。

「天音って、猫カフェ通ってたのか…」

それは初耳だぞ。

「そんな、通ってるってほどじゃないけど…。ちょっと癒やされたいときなんかに、たまに来てるんだ」

それを通ってるって言うんだよ。

そうか…。狂ったようにケーキ屋に通うシルナに比べたら、猫カフェ通い天音の方が好感度高いな。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がする…」

「気のせいだ。じゃあ、ちょっと入ってみようか…」

俺は猫カフェ、人生初体験だな。

入ったことないんだけど…どんな感じなんだろうな。

店名が「ラグドール」と言うからには、ラグドールしかいないんだろうか。

シルナはまぁ大丈夫だとして。

他のメンバーは、猫大丈夫なタイプだろうか。

「令月、すぐり。お前達猫は平気なのか?」

アレルギー…はないと思うけど。

動物って、結構好き嫌い分かれるし。

「正直、あまり好きではないなー」

「僕も」

おっと。

すぐりも令月も、猫は苦手なタイプ、

「犬に比べると、食べるところ少ないもんね」

「骨張ってていまいちだよねー」

あろうことか、とんでもない食レポを聞かされてしまった。

…お前達、それは一体何の話だ?

動物愛護団体大激怒。

怒られてしまえ。イレースと動物愛護団体に。

「お前ら、さっきの秘密基地と言い猫と言い…罰として、俺達が出てくるまでちょっと待ってろ」

「えー。俺達は入れないの?」

猫を愛玩動物としてではなく、食用として見ている時点で。

お前達に、猫カフェを利用する権利はない。

大人しく待ってろ。

そして、その間に秘密基地を撤去してこい。
< 233 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop