神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「マシュリじゃないが、こうして見ると…結構癒やされるな」

床に寝そべって、だらしなくお腹を見せている猫を、手のひらでそっと撫でる。

猫カフェの猫だけあって、よく人に慣れてる。

「でしょ?僕もよく…ちょ、くすぐったいよ」

猫がわらわらと、天音にすり寄ってきていた。

これは可愛い。

通い詰めてるせいだろうか?天音はモテモテであった。

…一方で。

「猫ちゃーん!こっち来て〜」

シルナは必死に、猫を追いかけ回していた。

が、猫の方は、断じて貴様に捕まってたまるものかと言わんばかりに、脱兎のごとく走って逃げ。

キャットタワーのてっぺんまで一気に駆け上がって、下にいるシルナを威嚇していた。

シルナが追いかけ回すと、最早犯罪以外の何物でもないな。

猫を追いかけるな。馬鹿。

「猫ちゃんが…猫ちゃんがこっち来てくれないよ…!」

「シルナの心が汚いんだろ…」

「酷い!」

やっぱり、動物はよく分かってるんだな。

その人が優しいどうかって。

だから俺とかシルナにはあんまり寄ってこなくて、心の優しい天音はモテモテなんだ。

それに、俺だけじゃなくて…。

「僕、天音さんに誘われて、何回かここに来たことあるんですけど…一向に猫が寄ってこないんですよね」

ナジュの周りも、閑古鳥が鳴いている状態だった。

モテない仲間。

「人間には人気者なんですけどね、僕。何故か猫には好かれないようです」

「お前も心が汚いんだろ」

「失礼な。僕の心の美しさと言ったら、あまりの綺麗さにホタルすら遠慮するすらいですよ」

悪趣味読心魔法使いが何だって?

…しかし。

ナジュやシルナ以上に、全く猫に好かれない人物がいた。

…というのも。

「…陸の孤島みたいになってますね」

「…あぁ」

イレースの周り。

人っ子一人…ならぬ。

猫の子一匹いない。

「…この私を無視するとは、生意気な猫共です」

なんて言って眼光を光らせてるもんだから、余計びびっちゃって、猫が近寄らない。

恐れおののくかのように、イレースを遠目に見ている。

そうか…お前らには分かるんだな。動物の本能で。

絶対に怒らせちゃいけない人物って奴を…。

「ぷふふー。イレースさん全然好かれてないじゃないですか。これは心がヘドロのようにきたな、」

「…何か言いましたか?」

「あ、いや何でもないです」

…おいナジュ、やめとけ。

猫でさえ、喧嘩を売る相手は選んでるんだから。

不死身とはいえ、勝てない相手を敵に回すな。

仕方ない。俺達は天音みたいに心が美しくないから。

折角だから、もうちょっと猫との触れ合いを楽しみたかったところだが。

猫を怯えさせたくもないから、俺はいろりで満足しておくよ。
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