神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「お待たせしました」

シュニィは、人数分のお茶のティーカップが載ったお盆を運んできた。

お帰り。

更に、さっきシルナが渡したチョコシュークリームも、一緒に持ってきた。
 
気を遣わせてしまって申し訳ない。

「どうぞ。…マシュリさん、紅茶は大丈夫ですか?」

「うん。…ありがとう」

「いいえ、どういたしまして。ゆっくりしていってくださいね」

と言って、シュニィはにこやかに微笑んだ。

…全く。

まさかほんの少し前まで、このシュニィが目の前の男に誘拐されていたとは思えないな。

悪意がなかったとはいえ、自分を拉致監禁していた相手に対して、これほどにこやかに接待するとは。
 
もう少し…何と言うか、嫌味の一つや二つ言っても、バチは当たらないと思うぞ。

しかし、シュニィはマシュリをなじる様子は欠片もなく、優雅にティーカップを傾けていた。

「…それで…マシュリさん、今日は私に会いたいと仰っていたそうですが…」

ティーカップをソーサーに戻しながら、シュニィが切り出した。

「私に何か…?」

「…」

…実は、俺も聞いてない。

マシュリはただ、「シュニィの家に行きたい」と言っただけだ。

シュニィに会いたいんだろうと思って、こうして都合をつけて来た訳だが…。

結局、マシュリはシュニィに何の用事があったんだろう?

「…ただ、見たかっただけだよ」

マシュリは、ポツリとそう呟いた。

見たかった…って、何を?

「君がどうしても帰りたがっていた、君の居場所っていうのが…どんな場所なのか、」

と、言いかけたそのとき。

ガチャッ、と客間の扉が開いた。

「あ、がくいんちょうせんせいだー」

「あ、アイナお嬢様。駄目です…!」

現れたのは、シュニィとにアトラスの愛娘、アイナと。

ルシェリート宅で雇われている、ベビーシッターのエレンという女性だった。

おっと。いらっしゃい。

って、ここアイナの家なんだけどな。
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