神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
学院長先生、だってよ。

シルナの奴、生意気にも、アイナに覚えてもらったんだな。

この間も会いに来たしな。

多分、いつもチョコ持ってきてくれる人、くらいの印象なんだろう。

アイナはてちてちと歩いてきて、シュニィの膝によじ登っていた。

可愛い。

「こら、アイナ…。お客様の前ですよ。勝手に入ってきちゃ駄目でしょう」

「いやいや、良いんだよシュニィちゃん。甘えさせてあげて」

と、シルナは言った。

そうだな。

シュニィがいない間、アイナ、凄く我慢して頑張ってたから。

思う存分甘やかしてやってくれ。

「アイナちゃん、シュークリームあるよ」

ここぞとばかりに、アイナにチョコシューを勧めるシルナ。

お菓子で釣ろうとするな。

「…しゅーくりーむ?」

「うん、ほらほら、美味しいよこれ。チョコ味でね…」

「ちょこ?」

「そうだよ、チョコのシュークリーム、」

「じゃあ要らない」

興味を失ったかのように、顔をプイッと背けるアイナであった。

…子供ってのは、残酷だな。

「そ、そ、そんな…」

「だから、カスタードとか生クリームも買っとけって言ったんだよ…」

チョコ味が万人に受け入れられると思うなよ。

シュークリームって言ったら、普通はカスタード味だよなぁ?

「…済みません…」

アイナの非礼(?)を、シュニィが代わりに謝罪していた。

いや、アイナは別に悪くないから。

食べる人のことも考えず、チョコ味ばっかり買ってきたシルナが悪いんだよ。

「アイナ、お母様はお客様とお話してるんですよ。あなたは子供部屋に…」

そう言って、シュニィはアイナをエレンに預けようとしたが…。

「…?猫ちゃん?わんちゃん?」

アイナはシュニィの膝から降りて。

代わりに、マシュリをじっと見つめながら首を傾げていた。

…え。

これには、一同固まった。

マシュリだけが、何を言われても驚かなかった。

「お兄ちゃん、わんちゃんなの?」

「…いいや、どっちかと言うと…猫だよ」

「じゃあ猫ちゃんだ!」

…マジで?

今のマシュリは、ちゃんとマシュリの…人間の姿だ。

猫の姿じゃない。

それなのにアイナは、初見でマシュリの正体を見破ったのである。

この優れた嗅覚…もとい、直感力。

そして、そんな相手に物怖じせずに話しかける胆力。

さすがシュニィとアトラスの娘だと言わざるを得なかった。
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