神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「わー!すごいすごい、ぬりかべ!」

アイナは大喜び。 

その横で、俺とシルナとシュニィは口をあんぐり開けていた。

…嘘だろ…?

「何でなれんの?お前…ぬりかべ…」

かろうじて、俺は声を絞り出し、マシュリ(ぬりかべフォーム)に尋ねた。

すると、返ってきた返事は。

「練習したから」

だ、そうだ。至ってシンプル。

…何故ぬりかべの練習をした?

更に、アイナは期待いっぱいの顔で、

「じゃあ、じゃあじゃあ、のっぺらぼうは?」

更なる無茶振りを要求。

対するマシュリ(ぬりかべフォーム)は。

「のっぺらぼう?分かった」

頷いたかと思うと、再び空中で一回転。

現れたのは、顔のない人間…正しくのっぺらぼうであった。

…嘘だろ…? 

大人でさえ「ひぇっ」と思う姿だったが、アイナはやはり、全く怯えていない。

それどころか、ますます手を叩いて喜んでいた。

「すごーい!お兄ちゃん、のっぺらぼうにもなれるんだ〜!」

俺も知らなかったよ。まさかマシュリにそんな…謎の特技があるなんて。

「マシュリ、お前…何でのっぺらぼうになんかなれるんだ…?」

のっぺらぼう「なんか」って言ったら、のっぺらぼうさんに失礼かもしれないけどさ。

…実在するのか?のっぺらぼうって。

「練習したから」

マシュリの返事は、相変わらず至ってシンプルだった。

口ない癖に、どうやって喋ってるんだ?

つーか、何故のっぺらぼうの練習をした?

動機が意味不明だよ。

「じゃあねー、えーっと…かしゃどくろ?はなれる?」

かしゃどくろ…ガシャドクロのことか?

アイナさん、随分えげつない妖怪知ってんな。

骨じゃん。

そして、マシュリの返答は…。

「ガシャドクロか…。ちょっと待って」

パンと手を叩いて、くるりと一回転。

さっきまでのっぺらぼうだったマシュリは、あっという間に骨になった。

「ひぇっ…」

あまりのえげつない姿に、シルナがびびっているのを横目に。

「わー!見て見て、すごい!かしゃどくろだ〜」

「ガシャドクロね」

「かっこいいね〜!」

この姿を見て、「格好良い」と言えるとは。

やっぱり大物だよアイナは。

そして、マシュリ。お前は何故。

「何でガシャドクロ…?」

いつ必要になるんだ?その姿が。

「練習したから」

…ですよね。

何故ガシャドクロの練習をしようと思ったのか。

「じゃあお兄ちゃん、今度はね〜…そうだ、布のひらひらの奴が良い。いったもめ?っていうの」

いったもめ…?

あ、一反木綿?

…布じゃん。

アイナさん、それはさすがに無茶振りが過ぎるのでは。 

もう、なんか…完全に悪乗りしてるとしか思えない。
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