神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
しかし、マシュリ(ガシャドクロフォーム)は。

くるりと空中で一回転。

ま、まさか。

「はい、これで良い?」

ひらひらと宙を浮く、一枚のスカーフのような姿になっていた。

…一反木綿だ…。

もう意味不明だよ。

「すごいすごい!」

アイナ、大興奮。

「じゃあ、くちさけおんなは?おはくろべったりは?たまのまえにはなれる?」

更なる無茶振りを強要していく。

注文の多い料理店。

「口裂け女に、お歯黒べったり、それから玉藻の前か…。ちょっと待って」

頷いたマシュリ(一反木綿フォーム)は、更に一回転。

口の裂けた女の姿になり、更に一回転。

今度は真っ黒な歯の女になり、更に一回転。

尻尾が9つある狐に姿を変えた。

「すごいすごーい!」

かつてないほどに、アイナが喜んでいる。

シルナのチョコシュークリームなんかより、遥かにアイナを楽しませているマシュリである。

…マシュリ、俺さ。

いろりの姿になったお前の尻尾が、二又に割れていたとしても。

全く驚かないよ。

「…一応聞いておくが、マシュリ。お前何でそんな姿に…」

「練習したから」

練習すれば何にでもなれるとでも?

「あと、ろくろ首とかダイダラボッチにもなれるよ」

たった一人で妖怪百鬼夜行かよ。

「お兄ちゃんすごい!もっと見せて〜」

アイナは大喜びで、マシュリに飛びついた。

妖怪の姿なのに、全く怯える様子はない。

「お兄ちゃん、魔法使いだ!お母様と一緒だね」

「え、いや…僕は厳密には、魔導師では…」

かと言って、冥界の魔物です、と言ってもアイナには通じないだろうし。

魔導師ってことで良いじゃん。

「お兄ちゃんみたいなすごい魔法使い、初めて…あっ、でもお母様が一番だから…お兄ちゃんは二番!」

「…それは、どうも…」

どうせなら、一番って言ってあげて欲しかったが。

やっぱりお母さんが一番なんだな。

で、マシュリが二番か…。

…負けたな、シルナ。

俺も負けてるけど…。

「すごい魔法だね、お兄ちゃん。それ、アイナにも出来るかな?」

「それは…ちょっと、無理かな。『変化』は僕にしか…」

「そうなの?…じゃあ、やっぱりお兄ちゃんすごい!」

「…」

あんまりアイナが物怖じせず、ぐいぐい来るもんだから。

マシュリは反応に困っているのか、たじろぎながら答えていた。

…玉藻の前の姿でな。

「レグルス!レグルスも呼んでくる〜」

と言って、アイナは自分の弟を呼びに行った。

おい、駄目だって。弟はまだ小さいんだぞ。

妖怪の姿なんか見たら、悲鳴を上げて泣き出す…かと思いきや。

アイナに連れられてやってきたレグルスは、姉同様。

マシュリの妖怪大変化を見て、大興奮できゃっきゃ言っていた。

…この姉弟、心臓に毫毛生えてそうだな。

さすが、アトラスの血を引くだけある。

「…シュニィ。お前んとこの子供達は…間違いなく、将来大物になるよ」

「…」

妖怪大変化に、大興奮する子供達を見て。

シュニィは無言で、天を仰いでいた。
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