神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
それから、約二時間後。

「…疲れた…」

「…お疲れ様です、マシュリさん」

あの後マシュリは、子供達に要求されるままに、次々に様々な妖怪に『変化』していた。

子供達は大興奮ではしゃぎまくり、そのまま二時間が経過。

あんまりはしゃぎ過ぎて疲れたのか、今は二人共、電池が切れたように、マシュリの左右にくっついて寝息を立てていた。

「客人のあなたに、子守りをさせてしまって…それどころか、マシュリさんを玩具にしてしまって…申し訳ないです」

シュニィは深々と頭を下げていた。

「別に良いよ。…ちょっと疲れたけど」

そりゃあれだけ、『変化』しまくりながら子供達の相手してたら、疲れもするだろう。

…にしても。

「何でお前…あんなにたくさん…妖怪になれるんだ?」

馬とか牛にはなれないのに、何故一反木綿にはなれるのか。

永遠の謎だよ。

「『変化』の能力を使うにあたって、やっぱり一般的な動物にはなれた方が良いだろうと思って、一通り練習したんだ」

お前の辞書に載ってる「一般的な動物」って、妖怪のことなのか?

俺達とは認識が違うらしいな。

それがよく分かった。

「でも、水辺の生き物は苦手だから。河童とか小豆洗いとか、海坊主にはなれないんだ」

「…ならなくて良いよ…」

今更だけど、お前がいろりの姿で学院に潜入してくれて、本当に良かった。

のっぺらぼうの姿で来られたら、悲鳴をあげてお祓いを頼むところだった。

特にシルナな。

あんなの夜中に見たら、間違いなく腰を抜かすぞ。

「済みません、本当に…。…もう、こんな時間に」

と謝るシュニィに釣られて、時計を見ると。

とっくに日が暮れる時刻になっていた。

そりゃそうだ。下校時刻過ぎてからここに来て、更に二時間経ってるんだから。

人様の家を訪ねる時間じゃないな。

「その…何か用事があったんですよね?私に…」

「…」

「子供達の世話をするばかりで、全然お話が出来なくて。本当に申し訳…、」

「…いや、目的は果たせたよ」

「…え?」

謝罪を繰り返すシュニィに、マシュリはそう言った。

目的、って…。

マシュリがここに…シュニィの家に来た目的、俺達も聞かされてないんだが…。

確か二時間前、何か言いかけて…。

「君の居場所がどんなところなのか、見たかった。それが、僕が今日ここに来た目的」

…シュニィの…居場所。

それを見る為に…?

「君がずっと帰りたがってた居場所…。君の家。見てみたかったんだ」

「…私の…」

「温かい場所だね。…こんな居場所があるなら、帰りたくなるのも当然だよ」

マシュリは、自分の左右で寝息を立てている子供達を一瞥して言った。

…そうだな。

ここは…長い孤独の中で、シュニィがようやく見つけた、彼女の大切な居場所だ。
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