神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「こんな居場所がある人を、僕は連れ去ろうとしたんだね」

「…マシュリさん…」

「そんなの無理に決まってる…。ようやく分かったよ。君が守りたかったものの正体が」

…他人事みたいに言いやがって。

シュニィにとって大切な居場所は、確かにシュニィのもの。

しかし…マシュリにとっての居場所は…。

「…大丈夫ですよ、マシュリさん」

シュニィは、マシュリの手をそっと握った。

この大切な居場所を、危うくシュニィはマシュリに奪われるところだったのに。

そのことに対する恨みつらみは、全く感じられなかった。

聖人かよ、シュニィは。

…それどころか。

「あなたにもきっと出来ます。大切な居場所。必ず」

「…」

…そうだな。

マシュリにも出来る。アーリヤット皇国の『HOME』じゃなくて。

マシュリにとって、本当に帰りたいと思える居場所が。

願わくばそれが、ルーデュニア聖王国の中にあれば、俺達としては光栄だな。

「…そうだね。そうだと良いな」

「えぇ。マシュリさんがご自分の居場所を見つけられるように、私も微力ながら協力させてもらいます」

あと、俺とシュニィもな。

アーリヤット皇国を裏切ってまで、ルーデュニア聖王国に寝返ってもらったのだ。

こちらを選んで良かった、と思ってもらわなきゃ困る。

「…僕は…」

と、マシュリが呟いたそのとき。

突然、ドタドタドタ、と廊下を駆けてくる派手な足音がした。

こ、この音は。

身構える暇もなく、客間の扉が豪快に開いた。

飛び込んできたのは、勿論。

「シュニィ!!アイナとレグルスがいない!何処だ!?」

「あ、アトラスさん…」

この家の主、アトラス・ルシェリートであった。

「…ん?」

「…どうも…」

お邪魔してます。
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