神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…シュニィとアトラスの家から帰った後。

イーニシュフェルト魔導学院、学院長室にて。





「いやはや、全く…凄いね、マシュリ君は」

改めて、シルナはそう言った。

「あんなに色んな生き物に『変化』出来るなんて…」

生き物っつーか…。

…妖怪だったな。

何故一反木綿にはなれるのに、馬にはなれないのか。

俺には永遠の謎だよ。

それから、もう一つ謎なのは…。

「…シルナ、お前の胃袋の限界も謎だよ」

「なっ、わ、私の胃袋は正常だよ!」

だって、今こうして話しながらも。

シルナは、チョコシュークリームを貪ってるからな。

こいつ、ちゃっかり、シュニィにあげる分と自分が食べる分、別々に購入してたからな。

アイナに「要らない」と言われた分を取り返すかのように、自分が食ってやがる。

しかも、寝る前だから一個だけ…とかじゃないぞ。

既に食べ終えたシュークリームの包み紙が2枚ほど、テーブルの上に散らかっている。

これで3個目。

病気だよ、こいつ。

イレースにデブ学院長と呼ばれても、全く否定出来ないな。

「は、羽久が私に失礼なこと考えてる気がする…!」

失礼じゃねぇ。事実だ。

「羽久も食べようよ、はい」

俺まで巻き込もうとするな。

甘いものをガッツリ食べるような時間ではない。

「俺は要らないよ」

「そんなこと言わず。深夜に食べるお菓子は美味しいよ?何て言うか…深夜に甘いものを食べてる…その背徳感が最高のスパイスって言うか」

…何言ってんの?

悪いけど、俺には砂糖依存症のシルナの気持ちは分からないから。

それに、深夜に甘いものなんて食べたら、胃がもたれるだろ。

「さぁさぁ羽久、チョコシュークリームをどうぞ」

「やめろって、俺まで巻き込、」

と、俺が言いかけたそのとき。

ガタッ、と扉の向こうから異音がした。

な…。

…何?

俺とシルナは固まって、扉の方を向いた。

「えっ…。い、今何か音…。…おばけ…!?」

べしゃっ、と食べかけのシュークリームを床に落としていた。

あーあ、もったいな…。

おばけにビビるなよ。イーニシュフェルト魔導学院の学院長ともあろう者が。

「大丈夫だよ。この時間だから、多分令月とすぐりか…」

自分でそう言いかけて、しかし、はたと気づいた。

令月とすぐりが、深夜に外出するのはいつものこと…いや、いつものことにしちゃいけないんだか…。

しかしあの二人は、ある意味おばけより恐ろしい。

下手に音を立てて、侵入に気づかれる…ようなへまを犯すはずがない。

つまり、令月達ではないのだ。

じゃあ…他に誰だ?

イレースは深夜に出歩かないし、天音も同じく。

ナジュは今頃、精神世界で恋人とイチャついてる時間だし…。

他に、深夜に学院を彷徨いていそうな人物と言えば…。

「…前も思ったけど、この建物、あまりにも不用心じゃないの?」

扉が開いて、中に入ってきた人物を見て。

俺もシルナも、思わず目を丸くしてしまった。

「え…ルディシア…?」

これは…予想外だったぞ。
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