神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
てっきり…令月とすぐりじゃなかったら、別の人物…。

マシュリ…とかかなと思ったんだが。

まさか、ルディシアだったとは…。

…ニアピンだったな。

「…何でこんなところにいるんだ?」

しかも、こんな時間に。

「大した用事じゃないよ。今夜は月も綺麗だし、活きの良い死体が眠ってないかと思って、墓場を荒らしてきた帰り」

とんでもない返事が返ってきた。

墓荒らしは充分「大した用事」だろう。

つーか、墓場を荒らすな。何だよ活きの良い死体って。

死んでるのに、活きの良いも悪いもあるものか。

「それに、この間は聞けなかったから…改めて、どうするつもりなのか聞きに来ただけだよ」

と、ルディシアは言った。

「え、ど、どうするつもりって…?」

床に落っことしたチョコシュークリームをハンカチで拭きながら、シルナが尋ねた。

「決まってるだろ?…あの『半端者』のことだよ」

…『半端者』。

ってのは…マシュリのことか?

「あいつは半端ではないだろ」

ただ魔物と人間のハーフなだけだよ。

「綺麗事はどうでも良い。あいつ、これからもずっとこの国にいるつもり?」

…それは…。

マシュリに聞いてみないことには分からないけど…でも。

「いて良いんじゃないのか。少なくとも、俺達はそのつもりだ」

何の為に、王都セレーナのおすすめスポットを紹介して回ったと思ってるんだ?

この国に慣れて、これからもずっとこの国にいてもらう為だ。

アーリヤット皇国に帰る必要はない。ずっとルーデュニア聖王国にいれば良い。

ここが、マシュリの居場所になれば良い。

俺はそう思ってるし、マシュリにもそう思って欲しい。

…しかし。

「…『半端者』は一つ所にはいられない。必ず味方に迷惑をかける」

ルディシアは肘をついて、台本に書かれた台詞を読むように、淡々と言った。

「以前、アーリヤット皇王がそう漏らしてたことがあるよ」

「…そうかよ」

アーリヤット皇王…ナツキ様にとってマシュリは、自分の部下だったはずなのに。

自分の部下を、そんな風に言っていたのか。

「俺だって、あまり人のことは言えないけど…」

ルディシアはそう前置きして。

「本気で『半端者』を匿うつもりなら、相応の覚悟が必要なんじゃないの?誰からも阻害されてきた奴っていうのは、それなりの理由があるんだよ」

…そうだな。

ネクロマンサーであり、自身もまた大勢の人々に遠ざけられてきた。

そんなルディシアが言うと、言葉の重みが違うよ。

かと言って、それでマシュリに対する認識を改めるつもりはないけどな。

誰が何と言おうと、ルディシアはルディシアだし、マシュリはマシュリだ。

誰にも、神にだって、文句は言わせるものか。

「生憎だな。…俺もシルナも、厄介事を自分から抱えるのは十八番みたいなもんだ」

相応の覚悟が必要だって?

良いだろう。どんと来いよ。
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