神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
マシュリに限った話ではない。

これまで俺達が、どれほど多くの…色んな事情を抱えた人物を受け入れてきたと思う?

座敷牢に囚われていた、多重人格の神の器に始まり。

同じく神の器であるベリクリーデやら。

殺しても死ぬことの出来ない、魔物と融合したナジュ。

暗殺組織『アメノミコト』を裏切って、学院にやって来た元暗殺者の令月とすぐり。

これだけでお腹いっぱいだろ。

それに聖魔騎士団にも、アルデン人で身寄りのなかったシュニィを始め。

家庭に色々な事情を抱えた、キュレム、ルイーシュ…それにエリュティア。

神殺しの魔法とまで言われた、強力な魔導書の守り人である無闇。

長い間契約していた魔物に脅され、大勢の人を殺してしまった召喚魔導師の吐月。

死者蘇生の魔法に関わった経験を持ち、魔導師でありながら、魔導師排斥論者だったクュルナ。

その他にも、これまで俺達は様々な事情を抱えた者に出会い、今日に至る。

勿論、ルディシアとマシュリもその一人である。

…改めて考えてみると、俺達の周りにいる人物の経歴…なんつーか、ヤバいよな。

皆して、波乱万丈過ぎるって言うか…。

…まぁ、その中心にいるシルナが、最もヤバい経歴を持ってるからな。

類は友を呼ぶってことなのかもしれない。

な?俄然、大丈夫な気がしてくるだろう?

これほど突飛な仲間ばっかりなんだから。

そこにネクロマンサーが加わろうが、魔物と人間のハーフが加わろうが、少しも驚くに値しない。

むしろ、複雑な経歴を持つからこそ、シルナと愉快な仲間達に相応しいって言うか。

つまり、面倒なことは気にせず、心置きなく俺達の味方になってくれれば良いんだよ。

敵じゃないなら味方で良いよ。

「大丈夫だよ、ルディシア君。マシュリ君はとても良い子だし、優しい子だよ。彼の抱える厄介事全てひっくるめて、ここにいて良いんだよ」

と、シルナは笑顔を浮かべて言った。

…まぁ、お前はそう言うと思ってたよ。

シルナが「お前は私達に迷惑を掛けるから出ていけ」と言い出したら、俺はシルナの影武者を疑う。

しかし、ルディシアは。

「甘いなぁ…。君達、本当甘いよ」

言い返す言葉がないな。

「良いんだよ、甘くて。私、甘いの大好きだから」

だろうな。

でも、ルディシアが言いたいのはそういうことじゃないと思うんだが?

敢えて突っ込む野暮は、しないでおいてやるよ。

「そんなこと言って、あいつ、一つ所に長くいられないんじゃなかった?」

「…うん、そうだね」

マシュリと、ナジュから聞いた話によると。

マシュリはかつて、長い放浪の果てに自分の居場所を見つけた。

愛する人の隣という、この世で最も心温まる居場所を。

…しかし、マシュリは自らの手で、その居場所を壊してしまった。

人間と魔物のハーフ…『半端者』に課せられた呪いのせいで。

一つの場所に長く居たら、いずれマシュリの…魔物の魔力が暴走し、自分でも制御が出来なくなってしまう。

そして、周囲の全てを巻き込んで破壊する。

…そのせいで、マシュリの大切な人は死んでしまった。

その恐ろしい呪いが存在する以上、マシュリは永遠に、心から落ち着ける居場所を見つけることは出来ない。

…くそったれな呪いだ。

でもその呪いこそが、マシュリを孤独に縛り付ける原因なのだ。
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