神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「実際、どうするつもりなのさ?綺麗事並べても、呪いは解けないよ」

「…分かってるよ」

ルディシアの言い分は最も。

綺麗事でマシュリを救うことは出来ない。

こうしている今も…いつマシュリが正気を失って暴走するか分からない。

二度と、マシュリに大切なものを壊させたくはなかった。

「…ようは、暴走する魔力を発散する場所があれば良いんだろ?それなら…」

やりようはあるんじゃないか?

暴走する魔力の捌け口があれば良いんだろ?

「定期的に、俺かシルナか…誰でも良いから、マシュリの相手をしてやれば良いんじゃないか?」

生憎俺の仲間達は、人間と魔物のハーフが暴走したところで、怯んで逃げ出すような奴らじゃないし。

それなりに相手してやって、魔力を発散させたら落ち着くのでは?

荒療治な気もするけど、それが一番現実的な解決方法だと思う。

しかしこれは、あくまで対処療法でしかない。

傷口に膿が溜まる度に、メスで切開して膿を出すようなもの。

傷口そのものが治る訳じゃない。

さっき俺が言った、定期的な魔力の発散を、一度でも怠ってしまったら。

マシュリは再び、大勢の人を巻き込んで暴走してしまうだろう。

それは俺達も、マシュリ本人も望まないはずだ。

「簡単に言うけど、その方法だと…あんたら、『半端者』の魔力の捌け口になるリスクを分かってんの?」

と、ルディシアが胡散臭そうな顔で尋ねた。

何だと?

「『半端者』の相手をしているつもりで、うっかり殺されたらどうするつもり?」

…あぁ、成程。

まぁ、その可能性は…無きにしもあらずだが。

「そんな油断するほど、俺達も馬鹿じゃないからな」

「これから先も同じことが言える?今は良いとして、来年は?三年後は?十年後、百年後は?」

「…」

「未来永劫、魔力の捌け口になり続けるつもり?永遠に…厄介な飼い猫を飼い続ける覚悟がある?」

随分と…重いことを聞いてくるな。

そう言われると、俺が自信をなくすと思ったのだろうか?

未来永劫、ずっとマシュリの面倒なんて見ていられない、と言い出すものだと?

それは浅はかな考えだぞ。

「猫を飼うときは、その猫が死ぬまでずっと面倒を見る覚悟が必要なんだよ」

その場の思いつきで、ただ相手が可哀想だからって理由で、一時的に保護する。

そして、面倒になったら、無責任に捨てる。

そんな馬鹿だと思われてたのか?

冗談じゃない。

「俺達皆、一蓮托生に決まってるだろ。マシュリの抱えてるもの、一生一緒に背負ってやるよ」

俺もシルナも、他の皆も。

この世の神…聖なる神に反旗を翻し、世界の敵になった仲だからな。

今更、そこに呪われたリカント(獣人)が加わったから、どうだって言うんだ。

遠慮せず、魔力の捌け口にしてくれて良いぞ。

学院の稽古場を使えば、周囲に被害も出ないだろうし。

「…馬鹿の極みだな…あんたら…」

ルディシアは、呆れ返ったような顔でそう言った。

全くだよ。我ながらそう思う。

だが、その馬鹿に救われる者がいるなら、それ以上大切なことはない。

「シルナ。お前も同じ意見だろう?」

と、俺はシルナを振り返った。
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