神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
シルナは、俺をこんな、馬鹿な考えにさせた張本人である。

全部シルナの受け売りだ。

だからルディシアが馬鹿と言うなら、その元凶はシルナだ。

シルナもきっと、俺と同じように考えているはず…。

…だと、思ったのだが。

「…うーん…」

シルナは俺の問いに答えず、腕を組んで何やら思案していた。

…?

「おい、シルナ?」

「…え?あ、うん、何?」 

再度呼びかけて、ようやくシルナは顔を上げた。

話、聞いてたか?

老化による難聴か?それなら仕方ない。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がする…」

「良いから、お前はどう思うんだよ?」

「え?」

…お前、本当に難聴か?

「ルディシアのことだよ。あいつの魔力がまた暴走したとき、どうするかって…」

「あ、うん…。それね、私も色々考えてたんだけど…」

「?定期的にマシュリの相手してやれば良いんじゃないのか?」

と、俺は思っていたのだが。

「確かに、羽久の言うような解決策もあるんだけど…」

「…何か問題が?」

「問題はある。まず、マシュリ君の魔力の暴走がいつなのか、予測を立てられないところ」

…それは…。

…なんか、前触れとかないんだろうか。

魔力が暴走する直前は、身体がムズムズするとか…。

いきなり意識を失って、いきなり暴走するんだろうか?

天気予報じゃないけど、今日は荒れそうだ、って事前に教えてもらえると、大変助かる。

「それに…マシュリ君の暴走がいつなのか、予測がつけられない以上…いつか、生徒を巻き込んで暴走する恐れもある」

「…それは…」

マシュリは普段、猫の…いろりの姿で学院に滞在している訳で。

最悪、生徒達がマシュリを可愛がっている、そのときに暴走するかもしれない。

すぐに駆けつけたとしても…そのときには既に、周囲の生徒を手にかけてしまっているかもしれない。

それだけは、絶対に避けなくてはならない。

無関係の生徒達の為にも。

そして、マシュリにとっても。

自分を可愛がってくれている生徒達を、暴走に巻き込んで死なせてしまうなんて…。

マシュリが望んでいるはずがない。

「じゃあ…どうするんだよ?まさかお前に限って…マシュリを追い出すなんて言わないよな?」

生徒を守りたい、その気持ちは分かるけど。

だからって、マシュリを無責任に放り出して良い理由にはならないぞ。

何の為に、アーリヤット皇国を捨てて、ルーデュニア聖王国を選んでもらったと思ってるんだ。

「言わないよ、勿論。マシュリ君にはこれからも、ルーデュニア聖王国に…イーニシュフェルト魔導学院にいてもらう」

シルナは、まるで決定事項のようにきっぱりと言った。

…良かった。シルナは、やっぱりシルナだった。

その言葉を聞いて安心したよ。

方法、手段はどうあれ、マシュリに安息の場所を与える。

マシュリ本人も、周囲の人間も、誰も苦しむ必要がないように。
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