神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…」
マシュリは否定も肯定もせず、黙っていた。
…怖い、って…。
「居心地の良い場所だからこそ…君のその罪が、私達に牙を剥くことを恐れてるんだよね」
「…うん、そうだよ」
…また、それかよ。
マシュリの罪って…それはマシュリの罪ではないだろ。
つまり、こういうことか。
居心地が良くて、本当はずっとここにいたくて、ここを自分の居場所にしたくて。
でもずっと自分がここにいたら、かつてそうだったように、自分の手でこの場所を壊してしまうかもしれない。
くそったれな呪いのせいで、また魔力が暴走してしまうかもしれないから。
…馬鹿マシュリ、そんなことの為に…。
…いや。
俺は「そんなこと」と言えるが、マシュリにとっては…きっと、とても重いことなのだ。
「もう充分だよ。充分…良くしてもらった」
「…」
「罪人の身には、過ぎた幸福。自分は一人じゃないんだって、『彼女』が死んで以来、初めてそう思えた」
…『彼女』。
マシュリの恋人だった女の子か。
名前は確か…スクルトとかいう…。
魔力を暴走させたマシュリの手によって、殺されてしまった…。
マシュリは、俺達がスクルトという恋人の二の舞いになることを避けようとしているのだ。
「そう思えたんだから、もうこれ以上求めるものは何もない」
きっぱりと、マシュリはそう言い切った。
…この、馬鹿は。
「嘘つくんじゃねぇよ…」
これ以上求めるものは何もない、だって?
俺はナジュのように読心魔法は使えないが、マシュリが今嘘をついていることは分かるぞ。
「求めてるだろ、お前は今も。自分の居場所を。ずっと居心地の良い居場所にいたいって、お前はそう思ってるんだろ」
「…」
「それなのに…自分の手で壊してしまうことが怖いから、突然出ていくなんて…」
「…じゃあ、他にどうするの?」
静かに、マシュリは俺に尋ね返した。
「君達を殺したくない。僕はもう…自分の罪のせいで、誰かの未来を奪いたくないんだ」
…それは…。
…分かるよ、マシュリの言いたいことは。
大切だからこそ…温かくて、居心地が良いからこそ…。
その場所を、その思い出を、綺麗なまま守りたい。
決して誰かの手で…ましてや、自分の手で壊してしまわないように。
「その為には、僕が出ていくしかない。これが一番確実で、手っ取り早い方法だ」
そうなのかもしれない。
マシュリの言う通りなのかもしれない。
だけど、俺達は…。
「…ここに居て良いって、そう言ってもらえただけで、充分だ」
一転、マシュリは微笑みを浮かべてそう言った。
マシュリが笑うの見るの、初めてじゃないか?
でもその笑顔は、とても儚かった。
自分の幸福を諦める為の笑顔だった。
決して、こんな顔はさせたくなかったのに。
マシュリは否定も肯定もせず、黙っていた。
…怖い、って…。
「居心地の良い場所だからこそ…君のその罪が、私達に牙を剥くことを恐れてるんだよね」
「…うん、そうだよ」
…また、それかよ。
マシュリの罪って…それはマシュリの罪ではないだろ。
つまり、こういうことか。
居心地が良くて、本当はずっとここにいたくて、ここを自分の居場所にしたくて。
でもずっと自分がここにいたら、かつてそうだったように、自分の手でこの場所を壊してしまうかもしれない。
くそったれな呪いのせいで、また魔力が暴走してしまうかもしれないから。
…馬鹿マシュリ、そんなことの為に…。
…いや。
俺は「そんなこと」と言えるが、マシュリにとっては…きっと、とても重いことなのだ。
「もう充分だよ。充分…良くしてもらった」
「…」
「罪人の身には、過ぎた幸福。自分は一人じゃないんだって、『彼女』が死んで以来、初めてそう思えた」
…『彼女』。
マシュリの恋人だった女の子か。
名前は確か…スクルトとかいう…。
魔力を暴走させたマシュリの手によって、殺されてしまった…。
マシュリは、俺達がスクルトという恋人の二の舞いになることを避けようとしているのだ。
「そう思えたんだから、もうこれ以上求めるものは何もない」
きっぱりと、マシュリはそう言い切った。
…この、馬鹿は。
「嘘つくんじゃねぇよ…」
これ以上求めるものは何もない、だって?
俺はナジュのように読心魔法は使えないが、マシュリが今嘘をついていることは分かるぞ。
「求めてるだろ、お前は今も。自分の居場所を。ずっと居心地の良い居場所にいたいって、お前はそう思ってるんだろ」
「…」
「それなのに…自分の手で壊してしまうことが怖いから、突然出ていくなんて…」
「…じゃあ、他にどうするの?」
静かに、マシュリは俺に尋ね返した。
「君達を殺したくない。僕はもう…自分の罪のせいで、誰かの未来を奪いたくないんだ」
…それは…。
…分かるよ、マシュリの言いたいことは。
大切だからこそ…温かくて、居心地が良いからこそ…。
その場所を、その思い出を、綺麗なまま守りたい。
決して誰かの手で…ましてや、自分の手で壊してしまわないように。
「その為には、僕が出ていくしかない。これが一番確実で、手っ取り早い方法だ」
そうなのかもしれない。
マシュリの言う通りなのかもしれない。
だけど、俺達は…。
「…ここに居て良いって、そう言ってもらえただけで、充分だ」
一転、マシュリは微笑みを浮かべてそう言った。
マシュリが笑うの見るの、初めてじゃないか?
でもその笑顔は、とても儚かった。
自分の幸福を諦める為の笑顔だった。
決して、こんな顔はさせたくなかったのに。