神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
そこまで言うなら、もう仕方がない。

マシュリの意志がこんなに固いなら、本人の好きにさせるしかない。

分かったよ、マシュリ。

また何処かで、元気でな…。

…って。

…言うとでも思ったか?

「そんなの許す訳ないだろ」

いかなる理由があろうとも、お前を笑顔で送り出すような真似をするものか。

しつこく引き留めまくって、うんざりしたお前が根負けして「やっぱりここにいます」と言うまで、絶対諦めないからな。

「そんな勝手…俺達が許すと思ったのか?」

「…でも…」

でもじゃねぇ。

「お前が暴走したところで、そんなことで殺される俺達じゃないぞ」

「何なら、僕が魔力発散に付き合いますよ。ほら、僕不死身なんで」

と、ナジュ。

不死身だからって、肉の盾になろうとするのはやめろって何度も言ってるだろ。

もう良い。ナジュに対する説教は後だ。

それより今は、マシュリを引き留めないと。

いかにマシュリが、気まぐれな猫だろうとも。

勝手に俺達の前からいなくなって、俺達の胃痛と心痛の種になるなんて、絶対許さないからな。

「お前は、既に俺達の仲間なんだってことを自覚しろ」

やっぱりやめた、は通用しないからな。

一度仲間になったからには、死ぬまで一蓮托生だ。

え?重いって?

うるせぇ。

これが俺達、イーニシュフェルト魔導学院の流儀なんだよ。

「分かってるよ…」

何が分かってんだ?

現状、お前何も分かってないじゃん。

「でも、だからこそ僕は自分の罪のせいで、君達を傷つけたくないんだ」

「だから、それはお前の罪じゃないって…」

「マシュリ君、あのね。私、君の為に色々と…方法を考えたんだ」

会話がループし始めたところを、遮るように。

シルナが会話に入ってきて、マシュリに告げた。

そう、そうだった。

昨夜ルディシアが訪ねてきたとき、話し合ったんだ。

マシュリが暴走しないで済むように、方法。

「まだ試してはいないけど、でも試す価値はあると思う。この方法が上手く行けば、多分、マシュリ君が暴走することは二度とない」

「…」

…どうやら、信じていないようだな。

マシュリは半信半疑という表情で、シルナを見つめていた。

「言っとくが、それなりの根拠があって言ってることだからな」

お前を引き留める為に、口から出任せ言ってる訳じゃねーから。

無駄に長生きしてるシルナの知恵と知識を、甘く見ちゃ駄目だぞ。

昨日シルナが口にした、あの方法…。

あれが上手く行けば、シルナの言う通り、マシュリが魔力を暴走させることは二度とない。

つまり、これからもマシュリは、安心してイーニシュフェルト魔導学院のマスコットで居続けられるという訳だ。
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