神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
――――――…マシュリが出ていく宣言をした、その翌日。

朝、中庭で、俺はマシュリの…っていうか、いろりの姿を見て。

ホッと胸を撫で下ろした。

良かった。あいつ…やっぱり心変わりして、勝手に行方を眩ませたんじゃないかって心配だったんだ。

それでも安心は出来ないので、念の為、一応元暗殺者組に頼んでおいた。

マシュリが勝手に出ていこうとしたら、絶対阻止してくれって。

あいつらなら、ネズミ一匹逃さないはずだから。

とはいえ、令月とすぐりも、昼間は授業があるからな。

ずっと見張っていられる訳じゃないし…。

マシュリが勝手に出ていくんじゃないかって、俺は心配だよ。

出ていかれたら、また探さなきゃならなくなるからな。

大変なんだぞ。お前を探すの。

半分魔物であるせいで、エリュティアの探索魔法にも引っ掛からないし…。

最悪、年単位で探し回る羽目になる。

そんなの御免だからな。絶対出ていくなよ。

と言うか、その前にマシュリの暴走を止める方法を見つけるべきだな。

シルナが提案した、あの方法…。

非常に罰当たりな方法ではあるが…。現状、あれしか手立てがない。

大事な宝物を、マシュリの暴走を抑える道具に使ってしまったことは、後でいくらでも謝る。

でも、今はこうするしかないのだ。

あとはマシュリを見張りながら、あいつが出ていかないように説得して…。

…と、考えていると。

放課後の学院長室の扉が、こんこんとノックされた。

「…ん?誰か来たな」

「きっと生徒だ!チョコモンブラン食べに来てくれたんだよ」

ノックの音を聞くなり、シルナがしゅばっと現れた。

チョコモンブランって、それはチョコなのか?栗なのか?

どっちでも良いけど…。

「君達!いらっしゃい!」

扉を開けてみると、シルナの予想通り。

5年生の女子生徒三人が、学院長室を訪ねてきた。

えぇと…確か彼女達の名前は…。

「よく来たね、メイちゃん、フロラちゃん、それにアルミラちゃんも」

俺が彼女らの名前を思い出す前に、シルナがそれぞれ生徒達の名前を呼んだ。

頭の中までチョコたっぷりの癖して、こういうときはめちゃくちゃ記憶力良いんだよな…。

生徒の顔と名前、完璧に覚えてるんだよ。

しかも、一度覚えたら決して忘れないらしく。

卒業していった生徒の顔と名前、それから何期生だったかも完璧に記憶しており。

たまに街中でOBOGに会ったとき、「○○君久し振り〜!14年ぶりだね!」とか言ってるときがある。

さすがに俺も、卒業生の顔と名前を全員は覚えられないよ。

…さて、それはともかく。

「さぁさぁ入って入って。チョコモンブランがあるよ!三人共、チョコモンブランを食べに来てくれたんだよね」

「え?いや、違いますけど」

えっ。

シルナ、笑顔のまま硬直。

「ここに来たら、いろりちゃんがいるかなーって」

「いろりちゃん、いないんですか?」

メイ、フロラ、アルミラ三人の目的は、シルナでもなければチョコモンブランでもない。

生徒の人気者、いろりを探して来たらしい。

…そうか…。

生徒の中では、「いろり≫チョコモンブラン≫超えられない壁≫シルナ」という、悲しい等式が出来上がっているらしい。

仕方ない。チョコ臭いおっさんより、可愛い猫の方が良いよな。

俺もそう思う。
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