神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「え…。…え?チョコ…モンブランは…?」

という、シルナの呟きなど聞こえていないようで。

「いろりちゃーん。いろりちゃん、何処?」

「中庭にいなかったから、てっきりここにいると…」

「グラスフィア先生、いろりちゃん知りませんか?」

えーっと…俺に聞かれても…。

それより、そこでシルナが固まってんだけど…。

まぁ、それは無視で良いか。

「多分…学院の中にはいるはずなんだか、ちょっと探して…」

と、思っていたら。

開けっ放しにしていた窓のさんに、しゅたっ、と小さな影が降り立った。

そして、にゃー、と一鳴き。

「あっ!いろりちゃんだ!」

自分を呼んだかと言わんばかりに、いろりが姿を現した。

多分、何処かで聞こえたんだろうな。自分を探してる生徒の声。

「いろりちゃん!おいでおいで〜」

「こっちだよー、ほら」

生徒達が両手を広げると、いろりはにゃー、と鳴いて、ちょこちょこと歩いてきた。

成程、これは可愛い。

まさかこれが、人間が『変化』した姿とは思うまいな。

こんな可愛い姿になれるのに、何故お前はぬりかべになろうと思ったんだ?

「負けた…。チョコモンブランが、いろりちゃんに負けた…!」

シルナがなんか言ってるけど、まぁ聞こえなかったことにしよう。

チョコモンブランと猫だったら、そりゃ猫の方が良いよ。なぁ?

「よしよし、可愛いね〜」

「私も私も。私も抱っこさせて」

「ちょっと待って。私が先だよ」

…モテモテだな。

生徒達に代わる代わる抱っこされ、たっぷり撫でてもらって。

いろりは満足そうに、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。

それを見たシルナが、必死に横から口を挟もうとした。

「あの、あの、君達。折角来たんだから、あのね、チョコモンブランを、」

「今日はいろりちゃんと遊びたくて、大急ぎで宿題終わらせたんですよ」

「そうそう。早く来ないと、他の生徒に先を越されちゃうと思って」

「間に合って良かった〜」

メイもフロラもアルミラも、全然シルナに気づいていなかった。

仕方ない。いろりが可愛いのが悪い。

「今日は良いものがあるんだよ…。はいっ、いろりちゃん」

そう言って、メイが制服のポケットから取り出したのだ。

猫用おやつ、ちゅちゅ〜るササミ味。

それを見た瞬間、いろりの目がきらーん、と輝いていた。

…あれは素の反応だろうな。

「よーし、じゃあいろりちゃん…お座りっ」

メイが指示をすると、いろりはすちゃっ、と床に座った。

犬かよ。

「偉い偉い。じゃあ、ちゅちゅ〜るどうぞ」

ちゅちゅ〜るの封を開けて、いろりの前に出すと。

いろりは必死になって、ぺろぺろとちゅちゅ〜るを舐めていた。

どっからどう見ても猫だが、実はこいつ、人間なんだぜ。

もう、そのまま猫にクラスチェンジしても良いのでは?

「よしよし、美味しい?いろりちゃん」

「いっぱい食べてね〜」

夢中でちゅちゅ〜るを舐めるいろりを見て、メイ達も満足そうだった。

…で、その横で。

「あの…あの、チョコモンブラン…」

…まだなんか言ってるぞ、シルナの奴。

もう諦めろよ。お前はいろりには勝てない。
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