神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…かと、思われたが。

「あ、そうだ。学院長先生」

フロラが、ふと顔を上げてシルナの方を見た。

途端、シルナの顔が輝いた。

良かったな。一応、そこにシルナがいることくらいは認識してもらってたらしい。

「ちょっと、お願いしたいことがあるんですけど…」

「お願い?良いよ、何でも良いよ!チョコモンブランだね?一人3つくらいあげる!」

3つも要らねーよ。

しかし、フロラが言いたいのはそういうことではなかった。

「え、チョコ…?何の話ですか?」

「えっ…。チョコモンブランを食べたいって話じゃないの…?」

「…?違いますよ?」

「…」

シルナはその場に、がっくりと膝をついていた。

なんつーか…うん…。

…ドンマイ。

「それより、学院長先生の許可が欲しくて…」

「駄目なのか…。チョコモンブランで世界は救えないのか…?」

何言ってんだ、シルナは…。

チョコモンブランで救えるのは、お前の世界くらいだよ。

「許可ってどういうことだ?」

シルナの代わりに、俺がフロラに尋ねた。

「私達、いろりちゃんにキャットタワーを買ってあげたいんです」

と、フロラが答えた。

…キャットタワー?

って、猫が登って遊ぶ玩具だよな。

キャットタワーと聞いて、ちゅちゅ〜るに夢中になっていたいろりが、しゅばっ、と顔を上げた。

すげー食いついてる。

「学院の中でカンパを募って、皆でお金を出し合って買ったら良いんじゃないかって…」

「…」

「…駄目ですか?」

…皆でカンパを募って…いろりにキャットタワー、ねぇ。

イレースが聞いたら、「そんな下らないことにお金を使うんじゃありません」と一喝しそうだが。

俺としても、個人的には…別にそこまでして、いろりに玩具を買ってやる必要はないんじゃないかと思う。

大体、何処に置けば良いんだ?そんなもの…。

しかし。

期待に目を光らせている、フロラやメイやアルミラの顔を見たら。
 
それに何より、キャットタワーと聞いてきらんきらん目を輝かせている、いろりの顔を見たら。

とてもじゃないけど、駄目とは言えない雰囲気なんだよな…。

生徒が自主的に何かをしたい、って言い出してるのに。
 
それを教師が口出しして止めるのは、あまり良くないような気がする。

「成程…シルナ、お前はどう思う?」

「…チョコモンブラン…」

「お前はいい加減、チョコモンブランを諦めろ」 

いつまで言ってんだ。

どう足掻いても、チョコ臭いおっさんは可愛い猫に勝てないんだよ。
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