神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「学院長先生、どう思いますか?」

改めて、アルミラがシルナに尋ねた。

「え?な、何が?」

話を聞いてなかったらしいシルナ。

おい、しっかりしろって。

「皆でお金を出し合って、いろりちゃんにキャットタワー買ってあげようと思うんです」

「えっ。キャットタワー…?」

「学生寮のエントランスに、痛んだ本棚があるでしょう?あれを片付けて、本を図書室に移動させたら、キャットタワーを置くスペースが出来ると思うんです」

と、アルミラが説明した。

成程、置き場所も考えてあるんだな。

確かに、現在、学生寮のエントランスに古びた本棚が置いてある。

本棚とは名ばかりで、ちょっとした魔導書を数冊入れてあるだけの、ガラクタ置き場みたいなものだ。

片付けなければとは思っていたのだが、その機会がなくて、ついつい置きっぱなしにしてしまっていた…。

この際だから、一念発起して本棚を片付け。

空いたスペースに、いろりの為のキャットタワーを置く。

悪くない提案なんじゃないか?

「どうでしょう?学院長先生。駄目ですか?」

「え?いや、うん。私は別に良いと思うよ」

シルナはそう言うだろうと思った。

シルナが許可を出すと、三人の女子生徒の顔が輝いた。

ついでに、いろりもめちゃくちゃ興奮していた。

登りたいんだろうか。キャットタワー。

お前、もう猫の姿がトゥルーフォームなのでは?

「ありがとうございます、学院長先生」

「良かったね〜、いろりちゃん。学院長先生、キャットタワー買っても良いって」

いろりの頭を撫でながら、メイが言うと。

いろりは返事でもするように、にゃー、と鳴いていた。

あれは普通に、素で喜んでんだろうな。

「そ、そ、それは良いとして、ね?君達。折角学院長室に来たんだから、いろりちゃんにおやつをあげるだけじゃなくて、君達もおやつを、」

諦めの悪いシルナが、なおも女子生徒達にチョコモンブランを勧めようと試みたが。

三人共、そんなシルナの必死の誘いは、耳に届いていなかった。

「それじゃ、イレース先生の説得もお願いしますね」

「私達は、カンパを募る準備をしなくちゃ…」

「いろりちゃん、もうちょっと待っててね。キャットタワー楽しみだね〜」

メイ、フロラ、アルミラの順でそう言って。

ついでとばかりに、いろりが再び、にゃーと鳴いていた。

「じゃあ、私達はこれで」

「あっ…。…チョコモンブラン…」

これでもう用事は済んだ、と言わんばかりに。

女子生徒三人は、さっさと学院長室から撤退していった。

…イレースの説得という、最も難易度の高い任務を俺達に押し付けて。

そして、残されたシルナは。

「…羽久ぇぇぇぇ」

俺に泣きついてきた。

「ったく…」

生徒に相手にされなかったからって、俺に泣きついてくるんじゃねーよ、全く。
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