神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
下校時刻後。

メイ達の頼み事を解決する為に、俺とシルナは、イレースのいる職員室に向かった。

いろりにキャットタワーを買ってあげたいらしいんだけど…と、話を切り出すと。

イレースは、ばっさりと一喝。

「駄目です」

…まぁ、お前はそう言うと思ってたよ。

だからこそ、イレースの説得が一番の難題なのだ。

「で、でもでも、イレースちゃん。メイちゃん達がキャットタワー買ってあげたいって…」

「必要ありません。学校は遊ぶ場所ではないんですから」

…間違ってはないな。

「でも、キャットタワーがあったら、いろりちゃんは喜ぶと思うんだよ」

目ぇキラッキラさせてたもんな。いろりの奴。

本当にケルベロスか?実は猫のハーフなんじゃね?

「ふん。馬鹿と猫は高いところが好きという訳ですか」

イレース、辛辣。

違うんだよ。猫はそう…猫の習性みたいなもんで。

「とにかく駄目です。そんな下らないことにお金を使うんじゃありません」

あ、ほら。

俺が予想した通りの台詞だ。

「大体そんなガラクタ、何処に置くつもりですか」

「が、ガラクタって…。…学生寮のエントランス…。本棚を片付けたら、あそこに置けるだろうって…」

「学生寮のエントランスは遊び場ではありません」

うん。それはまぁ、そうなんだけど。

イレースの言い分の方が正しいのは、百も承知なんだけど。

いろりの、あの期待した眼差しを見てしまったら。

やっぱりキャットタワーは買いません、とは言えないんだよな。

すると。

イレースの向かい側の席で、書類仕事をしている…と思いきや。

ただペン回しをしているだけのナジュが、口を挟んできた。

「良いじゃないですか。そんなケチ臭いこと言わなくても…。イレースさんは心が狭、」

おい馬鹿、鬼教官にそんなこと言ったら、お前。

案の定、イレースの鋭い眼光がナジュに突き刺さった。

「…何かおっしゃいましたか?」

「…って、天音さんが言ってました」

「えぇっ!?」

無関係の天音、とばっちり。

あのな、ナジュ。天音を巻き込むのやめろって。

「言ってやってくださいよ、天音さん。あなたの意見を」

「え、いや…。僕に言われても…」

「買ってあげれば良いのに、って思ってるんでしょう?」

ナジュを前に、隠し事は無意味だな。

天音も気の毒に。

と言うか…天音は、キャットタワー購入に賛成なんだな。

反対する理由がないもんな、天音には。
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